事故9年
東京電力福島第1原発事故の発生から間もなく9年―。構内では4000人規模の作業員が事故収束に向けた困難な作業を続けています。本紙チャーター機で上空から事故現場を取材しました。(中村秀生)
現場では、水素爆発で激しく損壊した1号機の原子炉建屋が、いまだに無残な姿をさらしているのが目につきます。上部には、ぐにゃりと曲がった鉄骨。下には巨大な天井クレーンが崩落し、使用済み核燃料プールからの燃料取り出しを困難にしています。
隣に見えるのが1、2号機の排気筒。高さ120メートルの上半分を解体する作業が昨年夏に始まり、すでに上から30メートルほど切断・撤去されているのが分かります。この排気筒は2013年に破断や変形が見つかり、15年には鋼材が腐食し耐用年数の基準を下回った可能性が本紙の調査で判明。地震などで万一にも倒壊すれば放射性物質が飛散すると心配されてきましたが、ようやく対策が取られました。
上空から作業の様子をうかがい知ることはできませんが、3号機では、事故後に設置されたかまぼこ型のドーム屋根の下で、使用済み核燃料プールからの燃料取り出しが昨年から行われています。
昨年、2号機に投入した調査機器が事故後初めて、溶け落ちた核燃料デブリとみられる小石状の物体をつかむことには成功したものの、全体状況の把握にはほど遠い現状です。
構内にひしめくのは約1000基のタンク群。汚染水処理設備で除去できないトリチウム(3重水素)を高濃度に含む汚染水の処分方法をめぐり、薄めて海に流す案などが議論されています。風評被害など社会的影響への懸念や政府・東電への不信感は大きく、漁業者はじめ国民の理解は得られていません。
先の見えぬ史上最悪レベルの原発事故。灰色の現場からふと視線を移すと、生命を育む海がエメラルドグリーンに輝いていました。
(「しんぶん赤旗」2020年2月22日より転載)