原発などの事故の際に甲状腺被ばくを防ぐ医薬品「安定ヨウ素剤」について、小泉進次郎原子力防災担当相は2月4日、施設から30キロ圏内の住民にも積極的に事前配布するよう、関係する24道府県に要請したと発表した。原子力災害対策指針では、5キロ圏内の住民に事前配布すると定めている。
小泉氏は「住民の健康を第一に考え、十分な効果が得られるタイミングで服用できるよう確実に住民の手に渡ることが不可欠だ」と述べた。
内閣府は今後自治体の意向を聞くが、自治体からは「住民への説明会開催などにお金と人手がかかる」「全住民に配るのか、避難に支援が必要な人に配るのか、明確にしてほしい」などの声が上がっている。
指針や配布マニュアルでは、原則40歳未満が対象だが40歳以上の妊婦や希望者にも事前配布できる。原発の5キロ圏内の住民は大事故の際は即時避難し、ヨウ素剤は自治体による事前配布を規定。30キロ圏内の住民は屋内退避し、備蓄しておいたヨウ素剤を避難所などで配布するが、自治体の判断で事前配布可能としている。
現在は5キロ圏内の住民のほか、九州電力玄海原発の30キロ圏内に入る福岡、佐賀、長崎3県など一部の自治体は、30キロ圏内でも緊急時の受け取りが困難な住民に事前配布している。
現在は医師が立ち会う説明会で住民に配っているが配布率が上がらないなど課題が残っており、小泉氏は、保健所などで配布する方法も活用するよう求めた。
原発事故で放射性ヨウ素が放出されると、食べ物や飲み物を通じて喉元の甲状腺にたまり、がんを引き起こす。安定ヨウ素剤は放射性ヨウ素の蓄積を抑制する効果があるとされる。
安定ヨウ素剤 放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐ医薬品。錠剤の場合、大人は1回2錠、3歳以上13歳未満は1錠を服用。3歳未満向けのゼリータイプもある。甲状腺以外の臓器の内部被ばくや、他の放射性物質には効果がない。原子力規制委員会のマニュアルなどが昨年7月に改正され、事前配布の対象は原則40歳未満で、服用は被ばくの影響が懸念される子どもや妊婦らを優先すべきだとされた。副作用の可能性があり、従来は医師立ち会いの説明会で受け取る必要があったが、改正後は薬局で受け取ることもできるようになった。東京電力福島第1原発事故では、政府内の情報共有が不十分で服用指示が現場に伝わらなかった。
【原発30キロ圏にヨウ素剤】本県 「配布対象要件明確に」
原発から30キロ圏内(UPZ)の住民にも安定ヨウ素剤を積極的に事前配布するよう通知を受けた福井県は、「UPZ内に住む全ての住民なのかなど、事前配布の対象者の要件を明確にするよう国に求めていく」と受け止めている。
内閣府の通知書面は、「事前配布によって避難等が一層円滑になると想定されるUPZ内住民への事前配布が可能」と書かれているのみ。具体的な配布対象者の記載はない。
福井県地域医療課によると、県内のUPZ内の住民は嶺南6市町と福井市など嶺北6市町の計約31万人。原発事故など緊急時には、国からの指示を受け避難途中に配布できるよう、役場や公民館などの公共施設に約93万人分の安定ヨウ素剤を備蓄している。
福井県は現在、原子力災害対策指針に従い、5キロ圏内(PAZ)の住民に事前配布している。同課の担当者は「事前配布をUPZに広げるなら、指針を改定する必要がある。国の配布要件が明確になった段階で、市町と相談し対応していきたい」と話している。
(牧野将寛)
安定ヨウ素剤
放射性ヨウ素による内部被ばくを防ぐ医薬品。錠剤の場合、大人は1回2錠、3歳以上13歳未満は1錠を服用。3歳未満向けのゼリータイプもある。甲状腺以外の臓器の内部被ばくや、他の放射性物質には効果がない。
原子力規制委員会のマニュアルなどが昨年(2019年)7月に改正され、事前配布の対象は原則40歳未満で、服用は被ばくの影響が懸念される子どもや妊婦らを優先すべきだとされた。
副作用の可能性があり、従来は医師立ち会いの説明会で受けとる必要があったが、改正後は薬局で受けとることもできるようになった。
東京電力福島第1原発事故では、政府内の情報共有が不十分で服用指示が現場に伝わらなかった。
(「福井新聞」2020年2月5日より転載)