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※巨大タンク群 処理水どこへ行く・・ルポ福島第1原発の今(上)

処理水が入った巨大タンク群を視察する日本記者クラブ取材団=12月4日、福島県大熊町(代表撮影)

 東日本大震災で過酷事故を起こし、廃炉作業が進む東京電力福島第1原発に、日本記者クラブ取材団の一員として(2019年)12月上旬に入った。最も取材団の関心を集めたのが円柱形の巨大タンク群だ。中には汚染水から大半の放射性物質を取り除いた処理水が保管されている。ただ、この処理水の処分方法は結論が出ていない。今後の廃炉に必要な作業スペースの確保にも影響を与えかねない状況が続いていた。(野田勉)

 福島第1原発の正門を入り、東京電力のバスに乗って構内を回った。1~4号機の西側を進むと、タンクが所狭しと並ぶエリアに入った。震災前は「野鳥の森」と呼ばれる緑豊かな場所だったが、木々は伐採され、今では水色や灰色の無機質なタンクが林立していた。

福島第1原発構内図

 「このエリアでは2013年にタンクから約300トンの汚染水が漏れ、地下水として海に流してしまった」。同行した東電の広報担当者が説明した。タンクは鋼板をボルトでつなげた「フランジ型」だったが、13年以降は漏えいの可能性が低い現在の「溶接型」に切り替えた。タンクの周りは堰(せき)で二重に囲まれ、水漏れ対策が施されていた。

▽猶予は2年半

 タンクは構内に約980基ある。タンク1基の高さは約10メートル、容量は千~1300トンが中心。設置スペースを合計すると東京ドーム5個分(約23万平方メートル)に相当する。1基当たり1週間から10日間ほどで満杯になるという。

作業車両の駐車場として利用されたJヴィレッジのサッカーグラウンド=2015年10月(Jヴィレッジ提供)

 東電は20年末までに最大で千基余りまで増やす方針だが、それ以降は未定だ。「今後、廃炉に伴う廃棄物の保管場所を考えると、もうスペースに余裕はない」(東電広報)。22年夏ごろには、処理水でタンク千基余りが満杯になる。

 福島第1では溶け落ちた核燃料が残る1~3号機の建屋内に注ぐ冷却水などが汚染水となり、今も増え続けている。専用の設備で浄化処理しているが、放射性物質のトリチウムは除去できない。

 トリチウムはエネルギーが弱く、人体に蓄積もしないため、処理水は実際に国内外の原発では海に放出されている。だが、処理水放出による風評被害を恐れた地元漁協などが反発。経済産業省が設置した小委員会で13年から処理方法を検討しているが、結論は出ていない。

天然芝が張られたJヴィレッジのサッカーグラウンド。事故後は砂利が敷き詰められていた=12月4日

▽県外放出にハードル

 「『放出してくれるな』というのが地元の立場だ」。東電福島復興本社の青柳英明副代表は苦悩の表情を浮かべながら、地元漁業者らの声を代弁した。福島復興本社は福島県内の自治体や住民と日ごろからコミュニケーションをとっている。青柳副代表はさらに続けた。「科学的にいくら安全だと言ってもなかなか難しい。住民にとって安全と安心は違う」

 処理水を巡っては、吉村洋文大阪府知事と松井一郎大阪市長が今年9月、科学的に環境被害がないという国の確認などを条件に、大阪湾で放出する可能性に相次いで言及した。

 実現性はあるのか。東電広報担当者は、処理水の量が膨大なことや、運搬方法や搬出先での放出には法律の問題などがあると指摘。「現実問題としてハードルは高い」と言い切った。解決すべき問題は山積みだ。(野田勉)

■宿泊先は「復興の象徴」 サッカー施設・Jヴィレッジ

福島第1原発の敷地内に所狭しと並ぶ水色や灰色のタンク。保管されている処理水の処分方法は決まっていない=4日、福島県大熊町(代表撮影)

 取材団の宿泊先は、福島第1原発から南に約20キロ離れたサッカー施設「Jヴィレッジ」(楢葉町、広野町)のホテルだった。かつて原発事故の収束拠点となっていた場所だ。

 Jヴィレッジは東京電力が整備し、地域振興を目的に福島県に寄贈した施設。1997年に国内初のサッカーのナショナルトレーニングセンターとして開設された。

 事故前は年間約50万人が訪れたが、原発事故で状況が一変。原発に近いことから、被ばくの有無を調べる装置や作業員用の宿舎が置かれ、事故収束のため政府や東電が使う「前線基地」としての新たな使命が与えられた。

 今年4月、約8年ぶりに営業全面再開となった。「復興五輪」を掲げる東京五輪の聖火リレーは、来年3月26日にJヴィレッジからスタートする。復興の象徴として新たな歴史を刻む。(野田)

(2019年12月24日、福井新聞より)