東京電力福島原発事故後、国民がつくりだした「原発ゼロ」の本流と、安倍晋三政権の「原発推進」の逆流が激しく衝突しています。経済産業者が12月6日に発表した「エネルギー基本計画」原案は、原発を「重要なベース電源」と位置づけ、着実な再稼働を表明。原発輸出や原発教育の推進を盛り込むなど、原発推進のための計画になっています。
教訓生かさず
「原子力の安全・安心な利用はありえない」。昨年(2012年)8月、世界自然保護基金ジャパンや気候ネットワークなど、エネルギー問題にかかわる市民団体や研究者が共同で発表した市民版「エネルギー基本計画」案は、福島原発事故を経験した日本がとるべきエネルギー政策の原則の第一に「安全・安心の確保」を掲げ、その柱として「原子力発電の全廃」を打ち出しました。
経産省の原案は、この対極に位置しています。原案も、政府や原子力事業者が「安全神話」に陥っていたことは「深く反省しなければならない」といいます。しかし、そこからでてくるのは「世界最高水準の新規制基準の下で安全性が確認された原発は、再稼働を進める」という新たな「安全神話」です。
「エネルギー教育の推進」として、事業者や行政官が積極的に教育現場に参加することも盛り込んでいます。教育現場に「安全神話」を持ち込むものです。
原案は、原発について、安定的なエネルギーのうえ発電費用が安く、温室効果ガスを排出しないので環境面でも優れているといいます。福島原発事故が明らかにしたのは、ひとたび事故が起これば電力の安定供給が妨げられ、賠償や除染に巨額の費用がかかり、放射能による環境汚染が際限なく広がることでした。原案には、福島の教訓が全く生かされていません。
財界の圧力で
民主党政権が2010年に策定した現在の計画は、30年までに原発を14基以上新増設するとしていました。翌年の福島原発事故で状況は一変。原発ゼロを求める国民の圧倒的世論を前に、民主党政権は2012年9月、「30年代の原発ゼロ」を表明せざるを得なくなりました。
民主党の「ゼロ目標」は、原発再稼働を前提とし、着工許可ずみの原発は新増設を認めるなど、実態は“原発延命策”でした。この不十分な目標に対しても、財界・米国は反発。経団連、経済同友会、日本商工会議所の財界3団体首脳は共同で緊急記者会見を開き、「到底受け入れることはできない」(米倉弘昌経団連会長、12年9月18日)と圧力をかけました。
12年末に返り咲いた安倍晋三・自公政権は、すぐさま「ゼロ目標」の見直しに着手します。基本計画を議論する経産省の資源エネルギー調査会基本政策分科会(会長・三村明夫新日鉄住金名誉会長)では、原発に批判的な委員の多くが入れ替えられ、「原発の必要性を明確にすべきだ」(西川一誠福井県知事)、「新増設を基本計画に入れるべきだ」(豊田正和・日本エネルギー経済研究所)といった意見が大勢を占めるようになりました。
今回、経産省の原案は、将来の原発比率や新増設については明記せず、原発再稼働など「先行きがある程度見通せると判断された段階で、速やかに示す」との表現にとどめました。この時期について茂木敏充経産相は6日の会見で「3年以内に目標を設定し、できるだけ前倒ししたい」と発言しています。
原案はまた、高レベル放射性廃棄物の最終処分場について、「国が科学的見地から適性が高い地域を示す」との文言を初めて盛り込みました。核燃料サイクルについても着実に進めるとし、六ケ所再処理工場、むつ中間貯蔵施設の竣工(しゅんこう)、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料加工工場の建設を明記しています。
(つづく)
(2回連載の予定です)