「五月闇(さつきやみ)熔解(ようかい)デブリ鬱鬱(うつうつ)と」「杭七万七千本 辺野古の海は春悲し」
安齋孝雄さん(69)が最近詠んだ句です。
■「言葉の力」磨く
孝雄さんは、今年亡くなった新俳句人連盟福島支部会員の先輩の遺品や本をもらいました。遺志を継ごうと大切にしています。
「言葉の力で平和と民主主義、原発ノーの思いを伝えられれば」と作品を磨いています。
東日本大震災のとき、孝雄さんは地方公務員でした。母親を弟のいる宮城県に避難させました。孝雄さんと妻のタミ子さん(69)は会津若松市に避難し、職場には2時間以上かけて出勤しました。「地域の発展のために役立ちたい」となった公務員。「住民が苦難に立ち向かっている時に現地を離れるわけにはいかない」と避難先から通い続けました。
自宅がある福島市飯野町は、東京電力福島第1原発から50キロに位置し、原発事故直後の放射線量は一時的に毎時20マイクロシーベルトありました。
タミ子さんは4人の娘が心配でした。ある自治体で働く娘には、仕事を辞めて少しでも遠くに避難するように促しましたが、娘から「こんな状態のときこそ一番頑張らなければならないとき。覚悟を決めている」と、キッパリと答えが返ってきました。
「親の姿を見て育った」と胸を熱くする一方で、「安全な所へ避難してほしい」という思いが交錯しました。
3月14日、テレビ映像を見て衝撃をうけました。ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX=モックス)燃料を使用するプルサーマル運転を始めて半年たらずの3号機建屋が大規模爆発を起こして上空に煙が上がっていました。
プルサーマルの危険性について、日本共産党元福島県議の伊東達也さん(現在原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表、原発事故被害いわき市民訴訟原告団長)を招いて学習したことを思い出しました。伊東さんは、MOX燃料の製造・運搬・使用・破棄のすべての段階で危険性があると指摘していました。
「放射能汚染を許すわけにはいかない。誰も責任をとっていない」と、「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の原告に夫妻で加わりました。
■訴訟に意気込み
復興庁の調査によると福島第1原発事故で避難指示が出た双葉、浪江、富岡3町で、40代以下の住民の半数以上が「帰還しない」意向を示していることが分かりました。
東電刑事裁判で、東京地裁はこの9月、旧経営陣に無罪判決を出しました。「誰ひとり責任が問われていない。加害者が被害者に対する賠償額を決めている。福島は理不尽がまかり通っています。生業訴訟で明確に国・東電を断罪させたい」と意気込んでいます。
(菅野尚夫)
(「しんぶん赤旗」2019年11月22日より転載)