2011年3月の東京電力福島第1原発事故で、業務上過失致死傷罪で強制起訴された旧経営陣3人を無罪にした9月19日の東京地裁判決の問題点を検証します。(「原発」取材班)
特徴の一つが、文部科学省の地震調査研究推進本部(地震本部)が02年7月に公表した「長期評価」の信頼性を否定したことです。しかし、この判決は、これまでの原発事故の損害賠償をめぐる民事裁判での認定と大きく違います。
たとえば17年3月の前橋地裁は「長期評価」について「地震学者の見解を最大公約数的にまとめたもので、津波対策を実施するにあたり、考慮しなければならない合理的なものである」と認めました。同年10月の福島地裁では「専門的研究者の間で正当な見解であると是認された見解で、その信頼性を疑うべき事情は存在しない」と判断しています。
「長期評価」は、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけて日本海溝寄りのどこでもマグニチュード8クラスの津波地震が、30年以内に20%程度の確率で発生すると予測したものです。
信頼性を否定
他方で、今回の東京地裁判決は、「長期評価」について▽複数の専門家の間で根拠が不十分という見方があった▽経済産業省の旧原子力安全・保安院から「長期評価」に基づく津波対策が完了するまで運転停止を求められなかった▽他の電力会社も全面的に取り入れなかった―などとして、信頼性について「合理的な疑いが残る」と全面否定しました。
しかし、37回に及んだ公判の証人尋問や証拠資料で明らかになったのは、東電社内の「土木調査グループ」が「長期評価」を重視したことです。07年秋ごろから、「長期評価」について「地震本部は権威ある機関」「否定する根拠がない」と考え、それをもとに津波対策の検討を始めました。08年3月には福島第1原発の敷地を超える最大高さ15・7メートルの津波襲来の計算結果を得ています。法廷では「(長期評価に)違和感がある」と証言した専門家も、当時は東電の津波担当者が意見照会した際に、「考慮すべきだ」と述べていました。
対策では重視
しかも、同じ太平洋側にある東海第2原発(茨城県)の津波対策を担当した日本原子力発電(原電)の社員の証言によると、同社は「長期評価」の見解を反映した対策を検討し、建屋の浸水防止装置などを10年までに終えています。対策を先送りにした東電の方針変更(08年7月)を原電社内で説明した際には、上司から「先延ばしでいいのか」と疑問が出されていたことも明かされました。
東京地裁判決は、保安院から運転停止を求められなかったとしていますが、「長期評価」をもとにした「15・7メートル」の計算結果を保安院に東電が伝えたのは事故の4日前でした。
福島原発告訴団の一員で被害者参加代理人の海渡雄一弁護士は判決を受けた会見で、「長期評価」の信頼性を否定したことについて、「証人尋問の結果に全く反する。都合の良い部分だけをつまみ食いした」と批判しました。
(随時掲載)
(「しんぶん赤旗」年9月21日より転載)