安倍晋三政権が4月末に公表した温室効果ガス削減についての長期戦略案に、環境団体などから批判が相次いでいます。長期戦略は、地球温暖化対策の世界的枠組みであるパリ協定にもとづき国連に提出が義務づけられたものですが、政府の戦略案が、求められている水準からの立ち遅れがあまりにもはなはだしいためです。
原発の推進を掲げるとともに、CO2排出量の多い石炭火力発電を温存する姿勢を打ち出したことには、「古びたビジョンの塗り直し」と厳しい指摘があがっています。長期戦略案は根本からあらためるべきです。
世界の流れに逆らう
国内外の50の環境団体が先月、連名で安倍首相に対し、気候変動対策の強化、石炭火力からの脱却を求める意見広告を、フィナンシャル・タイムズに掲載しました。首相が昨年9月に同紙に寄稿し、「地球を救うために日本とともに行動しよう」と呼びかけたというのに、日本がリーダーシップを発揮しないどころか、後退が際立っていることへの厳しい批判が込められています。
政府が先月まとめ、今月16日まで意見公募(パブリックコメント)を行っている長期戦略案は「脱炭素化」を掲げたものの、ドイツなどでは明記している石炭火力の「全廃」の方向は示さず、「石炭火力等への依存度を可能な限り引き下げる」と温存に固執しました。
日本国内の石炭火力発電は住民の反対運動などによって計画を中止したケースがありますが、新増設計画は25基もあります。長期戦略案はこの動きにお墨付きを与え、CO2の大量排出を続けることにしかなりません。欧州各国や米国の州では石炭火力の段階的廃止(フェーズアウト)が大きな流れです。石炭火力への投資から手を引く金融機関も相次いでいます。世界の潮流に逆らう長期戦略案の道理のなさは浮き彫りです。
海外での石炭火力発電事業に日本の公的金融機関の支援が続いていることは大問題です。安倍政権の「インフラ輸出戦略」で位置づけられたものです。インドネシアでは住環境破壊を引き起こし、住民から撤退を求める声があがっています。南アフリカでも日本の商社が石炭火力発電計画を持ち込み批判が集まっています。
政府は、石炭火力発電を「高効率」にするからCO2排出は少ないかのようにいいますが、同じ化石燃料である液化天然ガスの2倍のCO2を排出します。
温室効果ガスの長期排出につながる石炭火力発電から、国内でも海外でも撤退へ進むべきです。
長期戦略案は、CO2の回収・利用など「非連続なイノベーション(技術革新)」をさかんに強調しますが、まだ研究段階にある技術に過度の期待を持たせようとするやり方に、緊急性が必要な温暖化対策の現実を見ておらず不適切との指摘が絶えません。
未来への責任果たせ
安倍政権は6月に大阪で開かれるG20サミット(20カ国・地域首脳会議)までに長期戦略を決定する予定です。
石炭火力発電からの撤退に背を向け、原発推進をやめない長期戦略では、世界と未来への責任は果たせません。温暖化対策を促進するための真剣な対応こそが求められます。
(「しんぶん赤旗」2019年5月4日より転載)