東京電力・福島第1原発事故の発生から8年―。2号機内部に投入した調査機器が、溶け落ちた核燃料デブリとみられる堆積物に初めて直接触れて性状を探りました。廃炉へ責任を負う東電と国は「廃炉完了まで30~40年」と工程表を描きますが、少しずつ明らかになりつつあるデブリの状況は、廃炉への道のりが遠く険しいことを物語っています。トラブル続出で遅れている3号機プールからの使用済み核燃料の取り出し、行き場のない放射能汚染水…。課題は山積みです。(「原発」取材班)
デブリつまんだが…高い難易度、厳しい放射線
核燃料デブリとは、ウラン燃料や燃料被覆管、炉心構造物などが事故で高温になり溶けて混ざったものです。一部は原子炉圧力容器の底にたまっており、多くは圧力容器の底を突き抜けて原子炉格納容器の底に流れ落ちたとみられています。
国際廃炉研究開発機構(IRID)の解析によると、1、2、3号機を合わせたデブリの総量は推定600~1100トン規模です。
調査領域は2%
2号機では、昨年1月に格納容器の底部にカメラを投入し、デブリとみられる堆積物を撮影。今年2月には調査機器の3センチのギザギザの「指」で堆積物をつまんで動かせるかどうか調べました。
数センチの小石状の物体や構造物の残がいをつまんで持ち上げることができましたが、粘土状にみえた堆積物は溶岩のようで硬く、崩したり持ち上げることはできませんでした。東電は、溶岩状の堆積物を取り出すには、切断したりドリルで穴を開けるなど、新たな機器開発が必要だとわかったとしています。
今回の調査領域は、原子炉直下の床面積の2%。東電は、来年3月末までにロボットアームを使って格納容器底部の広い領域を調べたり、少量のサンプルを採取する計画です。
1号機は、2017年に自走式ロボットで格納容器内を調査しましたが、デブリ確認には至っていません。今年秋ごろまでに、潜水機能付きのボート型装置を複数投入し、堆積物の3次元形状などを調べます。
3号機では、17年に水中遊泳式のロボットで調査。小石・岩状などの堆積物が原子炉直下の全域に分布しているのを確認しました。
溶岩状が大量に
2号機で接触調査した小石状や溶岩状の堆積物について、核・エネルギー問題情報センターの舘野淳事務局長(元中央大学教授、核燃料化学)は、小石状の堆積物の下に、先に溶け落ちたデブリが溶岩状になって大量に存在するとみています。
デブリの主成分については、燃料のウランと燃料被覆管のジルコニウムの酸化物が溶け合い均一な固体をつくる「固溶体」と推測。「ジルコニウム酸化物(ジルコニア)は、ダイヤモンドに似た模造ダイヤと呼ばれる物質で非常に硬い。デブリもそう簡単には取り出せないのではないか」
セシウムなど核分裂生成物がどれくらい混ざっているか、床のコンクリートを浸食しているか、構造物の鉄は何か合金を形成しているのか…。調べるべき課題は残っています。
米スリーマイル島原発事故(1979年)では、デブリは圧力容器内にとどまったにもかかわらず取り出し完了には事故発生から10年を要しました。国と東電は今回、30~40年で廃炉を完了させるとしていますが、本当に可能なのでしょうか。
舘野さんは、格納容器が損傷し、放射線遮へい効果がある水中での取り出し作業ができない状況など、スリーマイル島原発とは比較にならないほど難易度が高いと指摘します。1時間以内で人間の致死量に達するという、格納容器内のきわめて厳しい放射線環境もあるとして、「急げば作業員の被ばくが増える可能性がある」といいます。
施設劣化 高まる危険・・プール燃料先送り、汚染水難航
核燃料プールからの使用済み燃料取り出しも遅れ、汚染水問題も出口が見えません。
1~4号機プールの計3108体の燃料のうち、取り出したのは4号機の1535体のみ。3号機は建屋上部のガレキ撤去に手間取り、装置のトラブル続出で何度も予定を先送りし取り出し開始は来月以降に。1、2号機は23年度がめどだとしています。
タンクの汚染水は112万トンを超え、来年末までのタンク建設計画(約137万トン)に迫りつつあります。トリチウム(3重水素)以外の放射性物質を基準値未満まで除去できると東電は言ってきましたが、処理設備で処理を終えた放射能汚染水の8割が、基準を上回っていることが昨年に発覚。膨大な汚染水を再処理する必要が浮上しました。
施設の劣化も進んでいます。1月には3・4号機の排気筒の高さ76メートルにあった点検用の足場(重さ22キロの鉄板)が落下しているのが見つかりました。今回は幸い作業者はおらず、人身事故には至りませんでしたが、時間の経過につれて同様の危険性は高まります。
国と東電は原発再稼働に熱中するのではなく、困難を直視して事故収束に全力を注ぐべきです。
(「しんぶん赤旗」2019年3月14日より転載)