「今日は何がありますか?」「あったかいココアはどうですか。体があったまりますよ」。湯気の上がるコップを受け取ると、冷えきった両手にじんわり熱が伝わってきます。
ここは、東京・永田町の国会正門前につながる歩道の一角に週1回出現するカフェです。その名も「かくめい喫茶 ゲリラカフェ」。
「原発なくせ」「再稼働反対」の力強いコールが夜空に響くなか、「今日もおつかれさまです」と笑顔で迎えてくれるのは、いとうやすよさん(29)と小椋(おぐら)優子さん(40)。
両手で抱えるほど大きなバスケットに玄米おにぎり、野菜のキッシュ、サンドイッチなどがぎっしり。2人が一日がかりで作り、キャリーカートで自宅から運んできます。
おすすめは、原発建設に反対する山口県上関町祝島産びわ茶、自家製ホットワイン、季節の果物のタルト。運がよければ、小椋さん特製の「革命パン」にも出合えます。材料費はカンパで賄います。
「持続可能で楽しい生き方を追求するなかで反原発デモに参加するようになった」いとうさんは、イベントなどへの仕出し業をしながら、デモの現場にもゲリラ的に軽食を届けるようになりました。
反貧困フェスで出会ったフリーライターの小椋さんに誘われて2人で始めた「ゲリラカフェ」は、この冬で1年を迎えました。
プラカードを首からさげてサンドイッチをほおばる人、コップを手にエール交換する人、歩道脇に腰を下ろして会話を楽しむ人。ゲリラカフェを囲む光景は、にぎやかな縁日のよう。行き交う人の足が自然に止まります。
「最初は一人で来た人も、ここで顔見知りが増える。同じ思いの人とつながったり、いろいろな人が来やすい場にしたりするのも抵抗の仕方の一つ」と、始めたきっかけを振り返ります。
雨などで休む日があると「先週は来てなかったね」と声をかけていく人も。「さまざまな人たちが食べたり飲んだりしながら語り合ううち、新しい面白い流れが起きるのではと期待しています」と小椋さん。出会った人たちが情報交換する場にもなりました。
毎回、仲間と一緒に寄るのが楽しみという原田淳子さん(39)は、政府への怒りでとげとげしい気持ちになっていても、ゲリラカフェに来ると気持ちが和らぐと言います。
「こぶしを挙げたり大声を出したりするのが苦手な人も、ここでお茶を飲んでいくだけで自分も行動に参加したと感じられる。そんなふうに気軽に来ることができる窓口になっている」
今週もまた、ゲリラカフェは私たちを迎えてくれます。
(館野裕子)