昨年、国民的議論で決められた「原発ゼロ」目標を投げ捨て、安倍政権は原発を「基盤電源」と位置づけるエネルギー基本計画を年明けに閣議決定しようとしています。民意無視、原発回帰の基本計画に怒りが広がっています。(佐久間亮)
数値示さず“無計画”
「(原発の)新増設は自ずと必要になる」
基本計画の原案発表を受け、関西電力の生駒昌夫副社長は、そう語りました。計画に新増設が明記されなくても、必要な規模の確保や、核燃料サイクル推進が盛り込まれた以上、いずれは新増設も可能になる―事実上の“勝利宣言”でした。
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)の早川光俊専務理事は、「福島原発事故の原因の解明も、汚染水問題の解決もできていないのに原発を推進する。民主党政権時代に『原発ゼロ』方針をつくらせた国民の声を完全に無視している」と批判します。
中長期的なエネルギー政策の指針となる基本計画。ところが、今回の案は、原発再稼働が進まないことを理由に、将来のエネルギー割合など数値目標を示していません。基本計画を議論してきた経産省審議会の三村明夫分科会長(新日鉄住金相談役名誉会長)は「計画というより政策」と言います。まさに「基本計画の名に値しない」(早川氏)中身です。
世界自然保護基金(WWF)ジャパンの山岸尚之氏は、「再生エネルギーや省エネの数値目標を後回しにする姿勢自体に、はじめに原発ありきの議論が隠れている。これでは温暖化対策にも逆行する」と指摘します。
再生エネ100%は可能
「優れた安定供給性と効率性を有し、運転コストが低廉で、運転時には温室効果ガスの排出もない」
基本計画案によれば、原発はいいことずくめ。福島原発事故による計画停電が深刻な影響を与えたことや、巨額の賠償金、除染・廃炉費用の発生、広がり続ける放射能汚染などないかのようです。
一方、再生エネルギーについては、「安定供給面、コスト面で様々な課題が存在する」と“劣等生”扱い。優れた原発と劣った再生エネルギーという構図を描き、それを「エネルギー教育」の名で国民にすり込むことまで狙っています。
WWFジャパンは2011年7月から今年9月にかけ、「脱炭素社会に向けたエネルギーシナリオ」を順次発表してきました。シナリオは、省エネ技術の普及で、日本のエネルギー消費量は50年までに08年比で半減できると試算。再生エネルギーを飛躍的に拡大することで、再生エネルギー100%社会は可能だとしています。
他の環境団体も同様の試算を発表しています。(表)
基本計画の議論では、こうした環境団体の試算は検討対象になりませんでした。審議会では、原発に批判的な委員の多くが推進側の人物に置き換えられ、基本計画案に反対意見を併記する提案も「恥ずかしい」(三村分科会長)と一蹴されました。
意見公募に声集める
国民の声に耳を傾けず、審議会から原発に批判的な委員を排除し、原案提出から1週間で結論、いつの間にか始まった意見公募―。気候ネットワークの桃井貴子氏は「秘密保護法と同じ強引さを感じる」と語ります。
昨年9月、原発に固執する民主党政権を「原発ゼロ」へと追い詰めたのは、意見公募に寄せられた8万9千の9割を占める、圧倒的な「原発ゼロ」の声でした。
桃井氏は言います。
「私たち市民は意志を形に示さないといけない。前回同様に多数の意見公募を集め、市民が怒っていることを見せたい」