優良な環境を子孫に 周辺自治体に「ノー」言う権限ある
運転開始から40年を迎える日本原子力発電・東海第2原発(茨城県東海村)。再稼働に必要な事前了解権をもつ周辺6市村は、一つの自治体でも了解できなければ再稼働できないとの認識を統一しています。この6市村の中で初めて「再稼働反対」の意思を表明した、同県那珂(なか)市の海野徹市長に聞きました。
(吉岡淳一、茨城県・高橋誠一郎)
―規制委が7日に延長認可しました。
東海第2は40年経過し老朽化原発と言っても過言ではありません。同じ沸騰水型の東北電力・女川(おながわ)原発は、34年で廃炉決定しています。東海第2は60年動かすというが、本当に大丈夫なのか疑問です。基礎自治体の首長は市民の安心・安全を守らなければなりません。その点で大きな危機感を感じています。
市民の65%反対
―なぜ再稼働反対を表明したのか。
3・11以前は、安全なら原発はいいかなと思っていました。あの経験がなければ、私は今でも原子力神話にどっぷり漬かっていたかも分からないですね。でもその後、原子力についてよく勉強もし、地震国には向かないこと、放射性廃棄物の管理に10万年も必要であったりすることと、安い電力だと言ってますけれど、処理費用を含めれば発電コストはかなり高い金額にもなります。原発はトイレのないマンションと言われていますが、まさにその通りです。
那珂市の市民アンケート(2016年度)で東海第2の再稼働について「反対」「どちらかといえば反対」が65%を占め、「賛成」「どちらかといえば賛成」は20%でした。原子力規制委員会が延長認可を出す前に、市民に対して私の任期中にちゃんとした考えを示した方がいいと思いました。
私たちには子孫に優良な環境を残す義務があります。子どもたちにツケを先送りする、リスクを負わせるのは、良識あるおとなのすることではないと思いますよ。
―再稼働に必要な事前了解権の意義は。
JCO臨界事故(1999年)の時、最も放射線量が高かったのが旧那珂町でした。風向きが海から内陸に吹いてきた場合、那珂市に放射性物質が降ってくることになります。過酷事故が起きた時のリスクは立地自治体ばかりではありません。だから、再稼働に必要な自治体への事前同意は、隣接にも広げるべきだと考えます。
3月に原電と結んだ新安全協定は、私たち周辺自治体にも再稼働についてイエス・ノーを言える権限があると思っています。ところが原電側は「合意を得るまでとことん議論させていただきます」と言いだしてきました。
今後、他の市長と力を合わせ、原電に対し私たちの思いを伝えていきたいと考えています。
自然エネ転換を
―避難計画策定など苦労している点は。
日本は、地震、火山もあり、最近は年に数回、激甚災害に該当するような災害も起きています。非常に揺れ動く大地ともいえるところで原発を稼働させるのは不適格だと思います。そういう思いから再稼働反対を表明させていただきました。
避難時のスクリーニング(住民をふるい分けて除染)場所は、那珂市では明確にはなっていませんが今のところ2カ所です。ここに市の人口5万5000人が殺到するわけです。
バス協会は、放射能があるところに運転手を派遣できないということなので、大量避難にバスは期待できず、自家用車頼みです。5人乗りとしても1万1000台必要です。しかも24時間以内に避難しないといけない。とても無理ですよ。避難計画を策定するのも無理、逃がすのも無理。そうなれば、一番の要因である原発を再稼働しないで廃炉にしていただくのが、われわれが選択・要望する唯一の方向です。
ヨウ素剤配布について言うと、5万5000人のうち、事前配布される5キロ圏内には1000人います。残りの5万4000人は、事故が起きた時に配れと。短時間に配布するのは不可能に近く、事前配布にするべきだと国に要望しているところです。
3・11の翌年、福島原発を見る機会がありました。バスで向かう途中、日曜大工の店などにカートが置いたままだったり、その辺にサンダルが転がっていました。「避難してください」と言われ、着の身着のまま急いで逃げた、一つの地域が消滅させられてしまう感じを受けました。
原発を一気に廃炉にするのは難しいかもしれませんが、1年に2、3基ぐらいのペースで廃炉にし、最終的には自然エネルギーに転換していく。原発がだめとなれば、人間は代わりのものを探しますから、将来、夢のエネルギーが実現すると思います。私はそれに賭けています。
(「しんぶん赤旗」2018年11月13日より転載)