「避難者訴訟」控訴審の焦点
東京電力福島第1原発事故で避難指示が出た楢葉町、双葉町、浪江町などの住民216人が東電に133億円の損害賠償を求めた、福島地裁いわき支部の「避難者訴訟」(早川篤雄原告団長)の控訴審が12月3日、仙台高裁で開かれます。福島原発被害弁護団幹事長の米倉勉弁護士に控訴審の焦点について聞きました。
(菅野尚夫)
―一審判決(3月22日)は、慰謝料など総額133億円の請求にたいして、東電の責任を認めて原告213人に約6億1240万円の支払いを命じました。原告団は「救済水準に及ばない」と批判し控訴、被告東電も控訴しました。
判決は非常に不満のある内容でした。公害事件として、それに相応した賠償水準に達していない低い水準です。不当判決と言わざるをえません。判決を聞いた時には、あれだけの立証を尽くしたのに「不当判決」の旗を掲げなければならないことが、悲しかったです。
賠償水準達せず
判決には、構造的な欠陥があります。一つは、当然検討すべきことを避けています。
被害者がどんな権利侵害を受けたかについての検討もせず、肝心な点が欠落しています。
放射能汚染で地域まるごと失うということが地域住民にどんなダメージを与えるのかについても分析していません。裁判所がまともな役割を果たしていない。
もう一つは、賠償の範囲を定めた原子力損害賠償紛争審査会の「中間指針」に追従していることです。そのために賠償額が低額になっています。
「中間指針」は、緊急時の最低限の賠償について当事者間の自主的な解決の目安を示したのにすぎないのに、そこを超えたものとなっていません。あたかも裁判上の規範のようにあつかい、低額になっています。これでは裁判の意味がありません。司法の任務放棄です。
さらに、中間指針に反映している国の復興政策にも追随しています。避難者は永久に戻れない。ふるさとを失ってしまったという損害を認めない。ここでも行政に追随した判決です。
損害の実相追及
―控訴審で焦点となるのはどんな点ですか?
原発事故で地域まるごと失った被害、ふるさと喪失による損害についてさらに掘り下げたい。地域生活を失うことによってうける損害の実相について追及します。
原発事故から7年半が過ぎて、帰還困難区域以外はほぼ解除されましたが戻った人は極めて少ないです。
地域が持つ生活と生業(なりわい)の諸条件が整わないと、やり直すことはできません。戻っている人はいますが、地域社会は変質し、機能を失って、地域コミュニティーが成り立たなくなっています。東電と国の重い責任が問われています。
福島地裁いわき支部では、避難者訴訟と並んで、いわき市民訴訟が係争中です。いわき市民訴訟は国も被告としてたたかっています。この二つの訴訟は「兄弟訴訟」として位置づけてたたかっています。
控訴審のたたかいと同時に、法廷の外のたたかいが大切です。
国はオリンピックまでに原発事故はなかったこととして終わらせたいと考えています。
福島原発事故の被害は終わっていないことを広く知らせ、東電の過失責任を明確にした判決を勝ち取りたいです。
(「しんぶん赤旗」2018年11月11日より転載)