大規模集中型電源から地域分散型に変えよう
北海道胆振(いぶり)東部地震での全道停電(ブラックアウト)、九州電力による太陽光発電の出力抑制は、原発頼みの電力システムの問題を改めて浮き彫りにしました。電力システム、エネルギー政策に詳しい都留文科大学の高橋洋教授に聞きました。
(伊藤紀夫)
―9月の全道停電は衝撃的でした。あの事件が示したものは?
ブラックアウトが起きたのは、戦後、初めてのことです。
ここ10年、電力システムについて世界の流れは、大きく変わりつつあります。それをキーワード的に言うと、「大規模集中型電源から分散型電源へ」ということです。ところが、日本では、大きな発電所は電力の安定供給には不可欠で、再生可能エネルギーなど小規模なものは安定供給上、問題がある電源だという考えが根強くあります。
欧州や中国ではいま、ものすごい勢いで、再生エネ、分散型電源が増えてきています。原子力、石炭火力は出力調整が苦手なため不都合で、ビジネス上、大きなリスクがある電源になってきています。
2011年の福島第1原発事故の際の計画停電にしろ、今回のブラックアウトにしろ、構図はほぼ同じです。
北海道の場合、北電は大規模発電にあまりに偏っていました。泊原発(207万キロワット)と苫東厚真石炭火力発電所(165万キロワット)の2本柱で、二つあれば大丈夫だろうと考えていたのでしょう。その他を合わせれば、500万~600万キロワットですから。ところが、泊原発は、福島原発事故後、6年間動いていないので、1本柱になっていた。6年間、ずっとリスクが高い状態でした。北電は、集中型電源を中心とする既存のルールは守っていた。しかし、福島原発事故で、集中立地は危ないよねと、あれだけ指摘されたのに、7年間に従来の発想を変えて、大型電源から分散型電源にかじを切ることができなかった。それ以外にも、送電線をもっと太くするとか、対策の選択肢はあったはずですが、間に合わなかった。既存のルールは満たしているが、福島原発事故から学んで大きく仕組みを変える努力をしてきたかというと、残念ながら不十分でした。
―九州電力が太陽光発電の出力抑制をして問題になっていますね。
出力抑制をしたのは、今回が初めてです。出力抑制をすること自体は、普通のことです。供給力が需要を上回るときに、供給を減らし需要に合わせるというのは、世界のどの国でもやっていることです。問題は、ルールが合理的でないことです。経済産業省の説明では、原発はベースロード電源で絶対に止めないが、再生エネは不安定だから、止めるというのです。
この説明は間違っています。原子力だろうが、太陽光だろうが、需給バランスという意味では電気は同じですから。欧州は、市場が決めるルールです。燃料費が高い電気から順番に止めていく。節約になるからです。メリットオーダーというのですが、単純な理屈です。再生エネの電気は、燃料費がただなので、それを止めるのはもったいない。だから、燃料費がかかる方から順番に止めるのは合理的でしょう。ドイツとかスペインでは再生エネの割合が非常に増えているので、たまに原子力を出力抑制しています。日本は、ベースロードという聖域のような理屈を持ち出して、再生エネを止めています。これは、国際的には理解されない、旧来の理屈です。
―世論調査では、原発から再生エネへの転換を求める世論が多数派で、原発ゼロ基本法案を野党が共同で国会に提出しています。電力システムの転換の方向は?
多くの国民が脱原発の方向を支持するというのは、その通りです。野党が安倍政権に対抗的な法案を出すというのは、民主主義の仕組みとして、極めてまっとうですし、法案の内容も妥当です。そのバックに市民運動があるというのも、良いことです。
中長期的には、原発や石炭火力に依存し続けるというのは、コストやリスクが高い仕組みです。私は、地域分散型エネルギーシステムに移行すべきだとずっと言ってきています。分散型システムの方が、中長期的には、コストも下がるし、エネルギー自給率も高まるし、気候変動の対策にもなるし、かつ地域への波及効果も相当に大きいわけですから。
分散型に切り替えていくことが、ビジネスの面からも安定供給の面からも必要で、世界はそういう方向に動いています。
原発依存を続ける日本は、再生エネ技術の面でも取り残されています。かつて日本のメーカーは太陽光パネルでは世界一でしたが、2005年以降は太陽光発電が増えなかったので、一気にドイツや中国のメーカーに追い越されてしまった。日本の再生エネメーカーは、ほとんど総崩れの状態です。これは、大きな損失で、明らかに産業政策の失敗です。
大規模集中型から地域分散型へ、原発から再生エネへ、日本はできるだけ早く転換すべきです。
(「しんぶん赤旗」2018年10月30日より転載)