政府の原子力委員会の有識者会議は30日、原発事故の損害賠償制度見直しに関して、事故に備えた賠償措置額を現行の1200億円に据え置く内容の報告書を取りまとめました。政府は、これを受けて原賠法改定案を今国会に提出する見通しです。
8月から行われた報告書案への意見公募では、約168件の意見がよせられ、措置額の引き上げや事業者の利害関係者の責任の明確化を求める意見などがありました。
東京電力福島第1原発事故で発生した賠償金はすでに8兆円を超えています。有識者会議でも損害賠償措置額の引き上げが必要とする意見が出ましたが、措置額の見直しは行われず、報告書別添で「文部科学省を中心に、引き続き検討を行う」とされました。
電力会社などが求めていた賠償責任に上限を設ける「有限責任」については、「無限責任を維持することが妥当」としました。一方、福島第1原発事故で設立された原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通して国が事故を起こした電力会社を資金援助する枠組みは、「今後の原発事故が起こった場合にも適用される」としています。
また、あらかじめ事業者が損害賠償の対応方針を作成・公表することの義務付けや、被害者への仮払いを迅速に行うための事業者への貸付制度などの整備を提言しています。
解説
事故の危険かえりみない政府・電力業界の姿勢追認
原子力損害賠償法の見直しを議論してきた内閣府の専門部会が、電力会社に備えを義務づける賠償金(賠償措置額)を現行の最大1200億円に据え置く報告書をまとめました。
東京電力福島第1原発事故では、賠償額はすでに約8・6兆円の巨額に上り、賠償措置額の70倍以上です。事故以前と同じ賠償措置額とは、あまりにも無責任です。事故の危険を見ようとしない政府と電力業界の姿勢を表しています。
専門部会の議論では、保険料や政府に収める補償額が増える賠償措置額の引き上げについて、経済界や電力業界は電気代の値上げにつながらないことなどを求め、負担増に反対していました。事故の責任をすべて負うつもりもなく、事前に備える資金も増やさず、原発を運転する資格はありません。
現行の原賠法は、過失の有無にかかわらず、電力会社が上限なく、全ての賠償責任を負う「無過失・無限責任」が原則です。賠償措置額の1200億円は民間保険や政府補償契約で賄います。それを超える分について福島原発事故では、新たにつくられた原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて、国費投入と電気料金への上乗せで東電に資金援助しています。負担を国民に転嫁する仕組みです。電力会社は新たな事故が起きれば、この仕組みで対応しようとしています。
経済界や電力業界は専門部会では、現行の「無限責任」を、一定額以上は国が責任を持つ「有限責任」に見直すよう執ように求めていました。「無限責任」では、事業の予見可能性が確保できないからだというのです。一定額以上は国に面倒を見てほしいと、あからさまな主張でした。事業の予見性が確保できない事故をもたらす原発事業だと考えるなら、撤退するのが筋です。
(三木利博)
(「しんぶん赤旗」2018年10月31日より転載)