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東電旧経営陣公判 津波対策の責任回避・・部下の証言、証拠を否定

東京電力福島第1原発事故で、旧経宮陣3人が強制起訴された公判の東京地裁の廷内=10月16日午前、東京都千代田区(代表撮影)

 東京電力福島第1原発事故をめぐり、業務上過失致死傷罪で強制起訴された東電旧経営陣3人の公判が16、17の両日に元副社長の武藤栄被告(68)、19日に元副社長の武黒一郎被告(72)に対する被告人質問が行われました。両被告は、事故の3年前に社内で津波対策をする方針がいったん了承されたなどの部下の供述調書の内容や証拠を否定しました。そのポイントをまとめました。(唐沢俊治、三木利博)

 巨大津波を予見できたかについて焦点の一つは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)が公表した地震予測「長期評価」をもとに最大15・7メートルの高さの津波が福島第1原発に襲来するとの計算結果をめぐる対応です。

 2002年7月に公表された「長期評価」は、福島県沖を含む日本海溝寄りのどこでも津波地震が起きる可能性を指摘したもの。国は06年9月に原発の耐震指針を改訂し、「最新の知見」で津波の影響を考慮して既存原発の安全性を再評価するよう各社に指示。東電は当初、09年6月までに報告書を提出する予定で作業しました。

 東電の担当グループは08年1月に地震本部の見解に基づいた津波評価を子会社の「東電設計」に業務委託。同3月に、第1原発の原子炉建屋などが建つ敷地の高さ(海抜10メートル)を上回る最大15・7メートルの高さになるという結果を得ていました。

15・7メートル“あてにならず”部下が言った

 これまでの公判で、社員らは「地震本部は権威ある機関」「否定する根拠がない」などの理由を列挙し、「長期評価」の見解は採用すべきで、採用しないと国の耐震審査が通らないと判断したと証言。福島原発で所長らが参加した説明会資料にも「津波対策は不可避」と記載されていました。

 当時、東電の原子力・立地副本部長だった武藤被告は公判で、15・7メートルの計算結果を知ったのは08年6月で、その津波の高さに「唐突感があった」と証言。報告を受けた部下が「長期評価」の根拠について「信用性はないという説明だった」ので、「私も『信用性ないな』と思った」と述べました。

 武藤被告の上司で原子力・立地本部長だった武黒被告は、09年4~5月に知り、報告を受けた元部長から「あてにならない」と言われたとして、「根拠があるとは思いませんでした」と述べました。

津波方針「了承」めぐり

 9月の公判で読み上げられた武藤、武黒両被告の部下で立地本部の元幹部の供述調書が焦点になりました。

 調書によると、08年2月に3被告も出席した「中越沖地震対応打ち合わせ」(通称「御前会議」)で、「長期評価」を取り入れ、福島第1の津波高が従来の想定を超える7・7メートル以上になることや、そのための津波対策方針が報告され、元会長の勝俣恒久被告(78)らからは異論はなく「了承された」と。さらに3月11日の「常務会」で、津波対策の実施が「了承された」といいます。

 これに対し、武藤被告は、御前会議の配布資料にある「7・7メートル以上」など「説明は受けていない」、「(御前会議は)何かを決める会議ではなかった」と述べ、調書を否定。武黒被告も「全くそんな議論はしていない」と述べました。

津波対策「先送り」めぐり

 検察官役の指定弁護士側は08年6~7月、武藤被告による方針変更があったとして、「津波対策を先送りにしたまま、漫然と原発の運転を継続した」と指摘しています。

 08年6月の会議では、担当者から「長期評価」を採用して津波対策を取る方向で、高さ10メートルの防潮堤が必要と説明され、武藤被告は、沖合に防波堤を造る手続きなどを調べるよう指示。元幹部の供述調書によると、武藤被告は15・7メートルの報告に驚き、「数値を下げられるのでは」と質問したといいます。

 ところが、1カ月半後の7月31日に同様のメンバーによる会議で、武藤被告は「研究しよう」と述べ、津波対策を進めるのではなく、15・7メートルの計算結果の妥当性を土木学会に検討をゆだねる方針を決めました。担当の社員は「力が抜けた」と証言しています。

 公判で武藤被告は「先送りは全くありません。大変心外」と否定。さらに6月の会議で「数値を下げられないか」と言ったかと問われ、「ありえない。『下げろ』なんて言うはずがない」と強く反発しました。

 また、土木学会のその後の審議状況について、両被告は、部下から聞くことはなかったと証言しました。

 両被告は、弁護人から福島原発事故について問われると立ち上がり、「言葉では表せない、ご迷惑をかけ、おわびしたい」(武藤被告)、「原発の責任ある立場にあった者としておわびしたい」(武黒被告)と裁判長に向かって頭を下げました。

 しかし、指定弁護士から「どうして事故が防げなかったのか」と追及され、武藤被告は「当時の状況としては最善の努力を払った」と証言。「15・7メートルの津波が現実に襲来したら事態はどうなると考えたのか」と問われた武黒被告は「全く考えなかった」などと述べました。

 指定弁護士側は昨年6月の冒頭陳述で次のように指摘しています。15・7メートルの計算結果などを軽視し、津波対策などの情報収集を怠り、適切な措置を講じる必要性を認識していなかったなら、「明らかに注意義務違反」だと。

 次回公判(30日)は武黒被告への質問の続きと、勝俣被告への質問が予定されています。

(「しんぶん赤旗」2018年10月22日より転載)