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原賠制度見直し最終案を読む ㊦・・青山学院大名誉教授 本間照光さんに聞く

東京電力福島第1原発(右から)1号機、2号機、3号機、4号機=2月、福島県

福島事故に背を向け

 ―専門部会では電力会社などが主張していた、電力会社の賠償に上限を設ける「有限責任」は明文化されませんでした。

 本間 被害者保護ではなく加害者保護だという審議内容がみんなに知られるにつれて、受け入れられないという世論の批判を抑えるのが難しくなってきたのです。だから、明文化を途中でやめ、形だけは今までのままにして、中身をなし崩しの有限化へと対応を変えたということです。すなわち、実質的に事業者の賠償責任を抑えて、国すなわち国民の税金や電気料金で穴埋めする方向になってきました。16年には、東京電力福島第1原発の廃炉や損害賠償・除染など21・5兆円ともされる膨大な事故費用を、電気料金の値上げや税金投入で国民負担に転嫁する方針を政府が決めています。こうした枠組みがつくられてきました。

 ―原賠制度は、巨大な原子力事故の試算を隠して制定されたと指摘してきましたね。

虚構性あらわに

 本間 原賠制度は、手に負えないリスクとコストを業界の外に回して、手に負えるかのような虚構をつくることでスタートしました。事故は起こらない、仮に起きても原賠制度がある、賠償措置額を設定してある、1200億円を超えるような事故はまず起こらないということでやってきたんです。虚構がなければ危険な原発を動かすことができなかったということです。

 福島事故そして今回の専門部会の議論と見直しの最終案では、その虚構性がいっそうあからさまになってきているといえます。すでに、賠償支払額は8・3兆円を超えています。政府が16年の年末に福島原発事故の処理費用を21・5兆円としましたが、賠償措置額1200億円で割ると180分の1です。40兆~70兆円という別な試算を措置額で割れば、330分の1や580分の1です。現行の額を100倍~200倍したって間に合わないのが現実です。どんな賠償制度をつくっても、原発事故に対応することはできないのです。それを、ビタ一文引き上げるのもいやだというのが今回の最終案です。原賠制度の虚構性を絵にかいたようになっています。

国民に知らさず

 本来なら福島原発事故の現実に合わせて再検討しなければいけないのに、それを回避して、あたかも何もなかったかのように事故前の水準で乗り切ろうとしています。賠償制度、保険制度は事故に歯止めをかけることに意味があります。あるいは事故が起きても拡大させない、被害に結びつかせないことです。原子力損害賠償制度は本来、多重防護とか避難計画などと合わせた組織的な災害対策の一環として講じられるべきものです。その観点がまったく抜け落ちた上で政府や電力会社は再稼働に走っています。手に負えないリスクとコストの現実に背を向けるばかりか、加害者保護をいっそう強める原賠制度の中身を国民に知られないようにしています。とても危ういと言わざるを得ません。(おわり)

(「しんぶん赤旗」2018年8月23日より転載)