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原発事故東電の和解拒否・・加害者の意識 まったくない/賠償出し渋り 世論の監視を

 

  東京電力福島第1原発事故に伴い全町避難を強いられた福島県浪江町の住民約1万5000人が町を代理人にして、東電に精神的賠償の増額などを求め、2013年に国の原子力損害賠償紛争解決センターに裁判外紛争解決手続き(ADR)の申し立てを行っていましたが、同センターは先月、仲介打ち切りを通知しました。町民は提訴も視野にした対応を迫られることになります。馬場有浪江町長と、原発訴訟・ADRに詳しい二宮淳悟弁護士に聞きました。(柴田善太)

 

福島・浪江町長 馬場 有さん

ばば・だもつ 1948年生まれ。浪江町議、同町議長、福島県議を経て、2007年から浪江町長。現在3期目。

 私たちが原子力損害賠償紛争解決センターに仲介を申し立てた原点は、原発事故がいかに長期にわたり、大きな被害をもたらすかを訴えることです。

 

 長期広域避難、生業と地域コミュニティーの喪失、家族の分断…。国の指針に基づく賠償は、そういう被害に見合わない。申し立ての目的は賠償の増額を求めること、被害実態を明らかにして社会に訴えること、町民が一つになって行動して国の施策に影響を与えることの三つでした。この目的が成就しなかったのは非常に残念です。

 私たちの思いは110ページの申立書に込められていますが、東電はこれを真摯に読んだのか。申し立てから5年、紛争解決センターの仲介案提示から4年、東電は「和解案を認めると、浪江町にだけでなく広域的に影響を及ぼす」「個別事情を判断して対応する」と私たちの訴えに耳をふさぎ続けてきました。2月末までに846人もの申立人が亡くなりました。東電には原発事故の原因者、加害者としての意識がひとかけらもないといわざるを得ません。

 

東電は新潟県の柏崎刈羽原発再稼働を進めるだけでなく、日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)の再稼働への資金提供を表明しています。福島第1原発事故の原因究明もできていないのに、再稼働、他社の原発への経済支援など、とんでもないことです。事故への反省がまるでありません。

 国の対応もおかしい。原発依存の政策が抜けません。他の電源とのベストミックスだなんて違いますよ。原発の危険性を認識して、再生可能エネルギーに早く移行し、脱原発を進めるべきです。

 原発事故被害の深刻さを風化させてはならないと思います。

 

弁護士 二宮 淳悟さん

 

 東京電力への賠償請求の方法は東電への直接請求、原子力損害賠償紛争解決センターヘの和解仲介申し立て、民事訴訟の三つがあります。(図参照)

 仲介申し立てで東電が和解を拒む特徴の一つは、浪江町の訴えのような被害の類型化を否定することです。国の指針は、放射線量や地域という範囲で共通の被害があって類型化ができるとしていますが、東電は類型化を認めず、個別の損害で見るという説明をします。類型化を認めると和解仲介申し立てをしていない人にまで賠償が広がる恐れがあるので、認めないわけです。もう一つの特徴は、訴訟提起中の原告が仲介申し立てている案件について、「訴訟との重複の可能性」を指摘し、「判決が確定するまで諾否(承知か不承知か)を留保」するという態度です。

 しかし、「重複」についていえば、和解仲介は「簡易・迅速」が目的で仮払い的性格があるのでそれを優先処理して、訴訟でその分を調整すればいいのです。「諾否留保」は和解仲介制度の趣旨に反するものです。

 東電は「最後の一人まで賠償」「迅速、細やかな賠償」「和解仲介案の尊重」という三つの誓いを公表しています。仲介の現場にいると「どこが仲介案の尊重なんだ」といいたくなります。

 東電は世論、世の中の動きを機敏に見ています。賠償を出し渋るのですが、世論が批判すると対応を修正します。しかし、世論が騒がなければ押し通す。

 和解成立率はこの間、低下しています。原発集団訴訟の判決が昨年3月の前橋地裁を皮切りに出ています。国の責任を認め、賠償も区域外避難も認めるものも出ています。しかし、賠償額は高くはありません。東電には「これならトータルの負担としては裁判の方が安くつく」という考えがあると思います。

 仲介申し立ては無料でできますが、裁判は費用がかかり、一審が出るまで5年くらいと時間もかかるから、裁判を起こす人はそれほど多くならないということを東電は見ています。

 東電に対して、世論の監視が必要です。

 

にのみや・じゅんご 1980年生まれ。日本弁護士連合会東日本大震災・原子力発出所事故等対策本部委員。福島原発被害救済新潟県弁護団事務局員。

 浪江町の仲介申し立て打ち切りで、ADR制度の限界が浮き彫りになりました。東電の仲介案たなざらし・拒否に対して、紛争解決センターは何度も和解を促していますが、強制力がない。このままでは仲介申し立て制度が機能不全に陥り、被害者救済が難しくなる可能性があります。

 日本弁護士連合会は原子力損害賠償紛争解決センターの立法化を提案しています。同センターの和解案の提示に、東電が一定期間内に裁判を起こして支払いを拒まない限り、裁定どおりの和解内容が成立するとみなすことができるようにするのです。被害者の方が和解案に不満だったらのまなくていい。加害者の東電だけを拘束する片面的裁定制度にするのです。

 国は東電の後ろにいるのではなく、こういった制度改善など前面に立って、東電を指導し、被害者救済を図るべきです。

(「しんぶん赤旗」2018年5月12日より転載)