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福島に生きるということ・・旧「警戒区域」に本屋開店/被災実相伝える教科書を

 

作家 柳 美里さん ゆう・みり 作家。 1968年横浜市生まれ。高校中退後、劇団「東京キッドブラザース」入団。『魚の祭』で岸田國士戯曲賞。著書に『家族シネマ』(芥川賞)、『JR上野駅公園□』『ねこのおうち』『国家への道順』ほか多数

 旧「警戒区域」の福島県南相馬市小高区に4月9日、本屋「フルハウス」を開店した作家の柳美里さん。福島市出身・在住で、高校教師を務める詩人・和合亮一さんと、福島に生きるということ、福島のこれからについて語り合いました。

和合 本屋フルハウス」の開店、おめでとうございます。

柳  ありがとうございます。「フルハウス」は、私が初めて出版した小説集の題名で、大入り満員という意味です。

和合 神奈川県鎌倉市から福島県南相馬市に移住されて丸3年になりますか。

柳 そうですね。2015年4月に原町区の借家に転居して2年3ヵ月、旧「警戒区域」の小高区に古家付きの土地を購入して引っ越しだのが昨年7月です。

 

南相馬を思い「詩の礫」発表

和合 その小高駅前のお宅の1階を改装して、本屋を開かれたんですね。

柳 大変でした。原発事故前に約1万3千人だった小高の住民が2500人しか戻っていないのに、商売として採算が合うわけがない、と銀行はお金を貸しませんし、クラウドファンディングなどで資金を募って開店にこぎつけました。

和合 南相馬市は、僕の高校教師としての最初の赴任地で、結婚し子どもも生まれた20代を過ごした第二の故郷です。被災6日目から「詩の礫」としてツイッターで詩を発表しはじめたのも、南相馬市に救援物資が届かないことへの怒りと悲しみからでした。その土地に、柳さんが、人が集まる場所をつくった意味は大きいと思います。

柳 10月には自宅裏に小劇場もオープンする予定です。去年のクリスマスイブに本屋と小劇場の開設に向けたイベントを自宅倉庫で開いたんですが、ぎっしり150人以上集まったんです。地元はもとより、宮城県や岩手県、東京都、熊本県からもみえました。

和合 僕も福島市で毎夏、震災後の福島の現実を伝え、鎮魂と再生を祈って創作神楽を奉納する「未来の祀りふくしま」などのイベンドを開いていますが、遠くからでも意志を持って、垣根を越えて集まってくる人たちがいますね。何かを守ろうとするかのように。

 

駅舎みたいな居場所づくり

詩人 和合 亮一さん わごう・りょういち 詩人・国語教師。 1968年福島市生まれ。第一詩集『AFTER』で中原中也賞。詩集に『詩の牒』『廃炉詩篇』『昨日ヨリモ優シクナリタイ』ほか多数。 2017年フランスより詩集嘗を日本人初受賞

柳 ただ本屋に来るのではなくて、前後に小高を歩いてみるとか、一つの旅の体験として捉えてくれているのかな、と思いますね。

和合 柳さんの本屋に足を運んで、柳さんと語りたいという人は、全国にたくさんいると思うんですよ。

柳 もともとは、小高産業技術高校の生徒たちが、常磐線の電車待ちができる第二の駅舎みたいな居場所をつくりたいと思ったんです。ですから終電の9時20分までは開けています。小高駅のホームに立つと、津波に流されて何もない光景が広がっていて、生徒たちは毎日、それを見るわけですよね。本屋は、失ったものを取り戻す場所でもありたい、と思います。

 

新たな関係を構築するため

和合 従来のつながりが破綻したままでは、震災や原発事故の傷は癒えない。柳さんは2012年3月から6年間、南相馬災害FMの番組「ふたりとひとり」の司会を務めて、約600人の方の話を聞かれましたね。その引き出しが、新しい人間関係を構築する力になっているのかなあ、と。

柳 被災3県の中で、福島県だけが自殺が減らないんです。知り合いのお兄さんも避難先の東京で自殺されました。小高の自分の畑に隣接して放射性物質の仮置場ができて、もう農業ができないと絶望されたんですね。一時帰宅した際に、カーテンを閉め切って亡くなったという話も聞きました。小高には、同居していた長男家族が避難先に定住し、伴侶を亡くしてぽつんと一人で帰られている高齢者が多いんです。喪失感にさいなまれた時に、本屋があれば、立ち寄って話ができるのではないか、と。

和合 僕の詩の講座にも、ただ話したいから来るという方がいますよ。震災後は増えました。人間関係が寸断されて、切られたつながりを取り戻そうという思いが強いんですね。僕も震災後、詩に「ふるさと」という言葉を多く使うようになりました。隣近所の連帯感が強い土地柄ですから、バラバラにされた孤独感はひとしおだと思います。

柳 現実がつらい人にとって、本は別世界の入り口になると思うんですね。和合さんにもお願いしていますが、フルハウスでは毎週土曜日に朗読会を開きます。中村文則さん、角田光代さん、青山七恵さんなど友人の小説家たちが来て、自作を明読してくれます。輪読会も、お年寄りの方々とやりたいと思っています。

和合 海外に呼んでいただくと、行く先々で朗読会が開かれます。日本語の朗読なのに、耳がこっちを向いていると感じるほど集中して聴いています。日本では明読会ってあまりないですよね。朗読なんか聞かない、相手の話を聞かない、聞こうとしないから相手も話さない。日本の社会のひずみは、ここから来ているんじゃないかと思います。

 

浜通り演劇祭開催の企画も

柳 小説家をはじめ24人の方にそれぞれ20冊選んでいただいた本も置きます。例えば、映画監督の岩井俊二さんは「いろんな命について考えてしまう20冊」など、皆さん、小高という場所の意味を考えてくださった選書になっています。本は商品や消費物ではなく、そばにあって共に生きていくものですよね。

和合 僕も本屋で詩集を手に取って開いたから、詩を書きはじめました。

柳 本屋は著者と読者をつなぐ窓でもあります。私は、1997年に『家族シネマ』が芥川賞を受賞した後の書店でのサイン会が、右翼の脅迫で中止になった経験があって、本屋は言論表現の自由の最後の砦だという思いがあります。

和合 その頃から、この計画は始まっていたんですね。僕は震災10年の節目となる2021年に向けて、子どもたちに震災と原発事故の実相と、被災地でのいろんな人の活動を伝えていくための教科書を作りたいと思っています。

柳 その前年の2020年には、常磐線が全線開通します。夏の東京オリンピックの時に、外国の人も含めて福島県浜通りに来てもらいたいんです。

和合 もともと震災復興五輪ですからね。

柳 「青春五月党」という私の劇団を25年ぶりに復活させて、地元の方たちと小高で芝居をやる予定なんですが、今、劇作家の平田オリザさんと、東京オリンピック期間中に「浜通り演劇祭」を開催しようと企画しています。

和合 ぜひ一緒に、福島からの発信を日本、世界へと続けていきましょう。

(「しんぶん赤旗」2018年4月16日より転載)