日本、進まぬ熱利用課題
木材や農業廃棄物など生物由来の物質を利用するバイオマスエネルギー。植物が光合成で大気中の二酸化炭素(C02)を吸収してできたものなので、京都議定書などではC02排出量はゼロとされる。太陽光や風力発電と並ぶ持続可能な再生可能エネルギー源として注目され、世界各国で利用が拡大、森林資源が豊かな日本でも注目度が高まっている。
「バイオマスは重要な再生可能エネルギーで、熱供給や発電、自動車燃料などとして広く使われている。2050年以降に化石燃料の使用をゼロにするというパリ協定の目標達成にも重要だ」-。世界バイオエネルギー協会(WBA)のレミギウス・ラピンスカス代表は今年5月、WBAや日本の自然エネルギー財団などが主催して都内で開いたシンポジウムで、こうアピールした。
エネルギーの専門家らでつくる「21世紀の再生可能エネルギーネットワーク」(REN21、本部フランス)によると、06年には200兆ワット時だったバイオマス発電の量は16年には504兆ワット時と2・5倍になった。発電設備の容量では米国が最も多く、中国、ドイツがこれに次ぐ。
トウモロコシや大豆などからのバイオディーゼルや、サトウキビを使ったバイオエタノールなど自動車燃料の製造量もこの間に同様に増加した。
バイオマスは、世界のエネルギー消費の14%を占めるまでになった。
スウェーデンやフィンランドなど森林資源が豊かな北欧諸国は、バイオマスエネルギーを「経済の脱炭素化」を進める上での主要な手段と位置づけている。
日本でも12年7月に始まった再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度でバイオマス発電が対象とされたことから、間伐材などを燃やして発電する施設が増加、下水汚泥や畜産廃棄物からのガスを利用した発電所も増えてきた。家畜の排せつ物や稲ワラなど農畜産業や漁業からの廃棄物など対象となる燃料の範囲は広く、地域の新産業創設やエネルギー自給にも貢献すると期待されている。
一方で問題も少なくない。日本の場合、固定価格買い取り制度の影響で、バイオマス利用は発電に偏りがち。欧州では発電と同時に出る熱を地域冷暖房や給湯などに利用してエネルギーの利用効率を高め、二酸化炭素の排出削減に貢献しているのだが、日本の熱利用は大きく遅れている。
また、燃料費を安くするための海外からの輸入燃料への依存度が高い。中には、東南アジアの熱帯林破壊の要因になっていると指摘されているアブラヤシのプランテーションで生産されたパーム油を使う発電所まで計画されており、環境保護団体からは、厳しい批判が出ている。
最新鋭は効率ほぼ100%
スウェーデン・・地域へ高温水供給
スウェーデンの首都、ストックホルム中心部から車で5分ほど行くと、茶色い円筒形の近代的な建物が目に入ってきた。エネルギー企業「フォータム」とストックホルム市が共同で運営する最新鋭のバイオマスエネルギープラントだ。
「市内にあるので周囲の景観に配慮したし、建設予定地にあった大きな木を切らないように設計を変えるといったこともしました」と広報担当のヨナス・コレットさん。茶色の外観は、周囲に多いれんが造りの建物との調和を考えたものだ。
2016年秋から運転を開始したこのプラントは、林業活動から出る廃棄物などを燃やして発電すると同時に、発生した熱を市内に送って暖房などに利用する熱電併給(CHP)プラントだ。
「欧州のバイオマスプラントはCHPが主流。この新プラントは年間、市内の平均的な規模のアパート約19万戸分に当たる17億キロワット時の熱と、7億5千万キロワット時の電力を供給できる、このタイプとしては世界最大級のものです」。技術マネジャーのヨアキム・メルストロムさんが施設内を案内しながら解説してくれた。
燃料を燃やして出た熱を利用してタービンを回して発電、水を加熱して高温にする。高温の水はパイプでストックホルム市内に送られて冬場の暖房などに利用、温度が下がった状態で再び、プラントに戻ってくる。バイオマスエネルギープラントの原理は単純だが、発電所内は、大小のパイプが縦横に張り巡らされた非常に複雑な構造だ。
メルストロムさんは「プラント内の熱も回収して再利用しているので、エネルギーの利用効率は非常に高く、計算上は1OO%近い」と語る。
原料の木材チップはスウェーデン国内や近隣諸国から専用の港を使ってプラントに運ばれる。発電所内の燃料貯蔵設備は約5日分の6万立方メートルと比較的小さい。市の中心部に近いため、コンパクトな施設にすることが求められたためだ。
バイオマス利用の大きなメリットは、地域への熱供給によって、暖房や給湯などに使う化石燃料の量を減らせることだ。
ストックホルム市によるとCHPの拡大で同市の1人当たり二酸化炭素(C02)排出量は1990年の2・9トンから2015年にはO・9トンにまで減少。16年の住宅1平方メートル当たりの排出量も5・6キロと1997年の3分の1近くにまで減った。
コレットさんは「新プラントの稼働でC02排出量はさらに減っている。遅くとも2030年までにすべての地域熱供給をバイオマスなどの再生可能エネルギーと回収熱で賄うことが目標です」と話す。
「認定済み」玉石混交・・買い取り制度、駆け込みも
日本でもバイオマス発電は増加傾向にある。経済産業省によると、今年3月時点の導入量は315万キロワット。固定価格買い取り制度の対象の中で最も多いのは、製材過程で出る端材、ヤシ殻やもみ殻、稲わらなど「一般木質バイオマス・農作物の収穫に伴って生じるバイオマス」による発電だ。
現在の国の計画では、2030年度にバイオマス発電の容量を、最大で728万キロワットにまで増やすことを見込んでいる。
ところが、稼働していないものの、業者が買い取り制度の適用を申請して認められた「認定済み」の容量は1242万キロワットと、既にこの目標値を大きく上回っている。
法改正による制度変更の経過措置期間の終了が迫り、今後、買い取り価格の引き下げが決まっていることなどから「駆け込み申請」が急増している状況で、中には実現可能性が低いものも含まれるとみられる。
経産省はこの3月、燃料の安定的な調達が可能であることを明確にするといった「事業計画策定ガイドライン」を策定し、事業者に順守を求めている。「法律とガイドラインにのっとって適切な事業が進むよう状況を注視している」(新エネルギー課)という。
バイオマスに詳しい熊崎実・筑波大名誉教授は「国内の森林、木材産業との連携がなければ燃料の安定的な確保は難しく、輸入燃料頼みになってしまう」と指摘している。
(「福井新聞」2017年10月22日より転載)