日本共産党嶺南地区委員会 > しんぶん赤旗 > 『資本論』刊行150年に寄せて 不破哲三⑤・・現代に光るマルクスの資本主義批判(4)/搾取と支配が社会全域に

『資本論』刊行150年に寄せて 不破哲三⑤・・現代に光るマルクスの資本主義批判(4)/搾取と支配が社会全域に

限度なしに拡大する社会の格差

1843年、ドイツで流布した風刺画「縛られたプロメテウス」

 「人民の消費力が減退し、労働者階級の窮乏と貧困とが増大しているのに、それと同時に上層階級における富の不断の蓄積と資本の不断の増大とが行われているということは、この国の社会状態のもっとも憂鬱(ゆううつ)な特徴の一つである」

 これは、どこの国の誰の言葉だと思いますか?。19世紀に首相を4度もつとめたイギリスの政治家グラッドストン(1809〜98年)が、1843年に議会でおこなった演説の一節です。マルクスは『資本論』で、この言葉とともに、20年後、この政治家が議会でふたたびこの問題をとりあげ、貧富の格差がさらに「信じられないほど」拡大したと訴えたことを紹介しながら、先進的資本主義国イギリスにおける格差拡大の原状を告発したのでした。(新日本新書版④1118〜1119ページ)

 しかし、それから150余年たった今日、世界における格差の拡大は、グラッドストンを「憂鬱」にさせる程度の話ではなく、数字を聞いたら誰も「信じられない」というだろうほど、途方もない状況になっています。

 この問題についての調査を続けている国際民間団体オックスファムの報告は、2017年1月の時点で、世界の最上層にたつ富豪8人の資産総額が、36億人の下層部分(世界人口の半分)の資産総額と同額だという驚くべき数字を発表しました。なんと4億5000万倍の格差があるという数字です。

 マルクスは、『資本論』で、個々の企業における搾取の問題だけでなく、資本主義が生み出す社会的格差の拡大の問題にも、分析の目をむけました。

 資本の利潤第一主義は、個々の企業の内部で労働者を搾取し抑圧するだけではありません。社会全体を資本の支配下におき、労働者階級の全体を社会的な搾取の鎖にしばりつけ、貧富の格差拡大を社会の鉄則とします。マルクスは、『資本論』のなかで、この問題に特別の1章を当て(第一部第7篇第23章)、格差拡大を鉄則とする資本主義の仕組みを明らかにしました。

マルクスの目で現代の職場と社会をみよう

 労働者階級の全体を縛りつける社会的な鎖とはなにか。

 資本主義が労働者の大きな部分を失業・半失業の状態に落ち込ませ、その社会的圧力で現役労働者により過酷な労働条件をおしつける社会的な仕組みをつくりあげたことです。現役労働者を取り囲む失業・半失業の膨大な部隊を、マルクスは「産業予備軍」と呼び、その役割を次のように描きだしました。

 −−−この予備軍の大きな隊列が存在するために、その社会的圧力を受けて、現役労働者は資本の命令に服従せざるを得なくなり、より過酷な労働をも我慢するようになる。

 −−−こうして、労働者階級の一部分が過度労働を担わされることは、雇用の範囲をせばめ、労働者の他の部分を失業・半失業の状態(マルクスはこれを皮肉な言葉で「強制的怠惰」と表現しています)に突き落とす。

 マルクスのこの目で、現在の日本社会を見てください。「就業」労働者といっても、短期で解雇可能な「非正規」労働者が多数派になって、「正規」と「非正規」のあいだには、150年前に『資本論』で分析されたような関係が、より巧妙・悪質な形で横行しているではありませんか。そして「過労死」を生む異常な労働条件が、大企業の職場でも当然視されているのです。

 実際、このような労働現場の実態を基礎に、社会的な格差は、グラッドストンが150年前に告発したイギリスの状態をはるかに超え、世界的ベストセラーになった『21世紀の資本』の著者トマ・ピケティをはじめ、マルクスとは立場を異にする多くの経済学者が、21世紀資本主義の前途に警告の声をあげているのは、ご承知のとおりです。

プロメテウスとともに鉄鎖を断とう

 マルクスは、「産業予備軍」に依拠して労働者を「貧困、労働苦、奴隷状態」に縛りつけるこの状態を、最高神ゼウスによってカウカソスの岩山に強力な鎖で縛りつけられた巨人プロメテウスの物語にたとえました(新日本新書販④1108ページ)。プロメテウスとは、ギリシア神話の英雄的巨人で、人類に火を与えたために、最高神ゼウスの怒りを買ったのでした。

 マルクスは、このプロメテウスが大好きで、若いころ、大学に哲学の学位論文を提出した時、その「序言」をプロメテウスヘの賛辞で結んだほどでした。この話も、労働者階級への抑圧の強烈さを示すたとえ話ではなく、そこに込められているのは、搾取の鉄鎖を打ち砕くために、プロメテウスとともにたたかおうという、熱い呼びかけでした。

 マルクスは、大学卒業後、「ライン新聞」を舞台に活躍し、やがてその編集長になりましたが、その革命的民主主義的傾向を恐れた政府は、1843年1月、この新聞に禁止命令を出しました。ここに掲載した「縛られたプロメテウス」の絵は、その時、流布された風刺画の一つで、マルクスをプロメテウスになぞらえたものでした。

(つづく)

(「しんぶん赤旗」2017年8月5日より転載)