経済を管理する「社会的理性」がない
“資本主義社会では、「社会的理性」はいつも「祭りが終わってから」はたらく”(新日本新書版⑥497〜498ページ)
これは、利潤第一主義を行動の原理とする資本主義社会が、経済を管理する理性的な力をもたないことを、痛烈な言葉で指摘したマルクスの警告です。「祭りが終わってから……」とは、日本のことわざで言えば“あとの祭り”というところでしょうか。
この批判は、市場の制限など無視して競争で生産拡大の道を突き進み、いつまでも恐慌という周期的災害から逃れられない資本主義の体質に向けられた言葉ですが、21世紀を迎えた今日、マルクスの警告は、いちだんと深刻な意味をもってきています。
原発問題で問われるもの
まず原発問題をみてみましょう。そもそも原発とは、原子力潜水艦という軍事上の要求から開発された原子炉を、安全性の保障もなしに民間向けに転用したものでした。この危険なエネルギー源を大規模に平時の国民生活に取り入れたこと自体、「社会的理性」の存在を疑わせることでしたが、その報いは、スリーマイル(米国、1979年)、チェルノブイリ(ソ連、1986年)、福島(日本、2011年)という、相次ぐ三大事故で世界に示されました。
ところが、日本の政府・財界は、福島での原発事故という大変な災害を経験したのちも、事故現場で放射能の危険を除去する何の見通しも立たないのに、各地で原発を再稼働させています。
問題は災害の危険だけではありません。
原発の運転は、危険な放射性廃棄物を大量に生み出します。その使用済み核燃料から、原発の燃料に再利用できる部分を取り出す作業を「再処理」というのですが、日本では、その作業に成功せず、現在、この危険な使用済み核燃料が原発の敷地内のプールに大量にためこまれたままでいます。
しかも、「再処理」になんとか成功したとしても、そこから出てくる廃棄物は文字通り放射能の塊、人間がそばによるだけで即死するという危険物です。その放射能が人間に被害を及ぼさないほど小さくなるまでには、数万年は必要だとされ、その数万年、これを安全に維持する最終的な解決策はいまだに見つかっていません。見つかったとしても、いったい、自分たちがつくり出した巨大な危険の管理責任を、数万年もの先の未来世代におしつける権限が誰にあるというのでしょうか。
さらに、それにどれだけの費用がかかるか、誰も計算できないでいます。おそらく処理費用を入れると、原発は経済的どころか、最もコスト高のエネルギーだという結論が出るのではないでしょうか。
ここには「社会的理性」を失った資本主義の無責任さの、最悪のあらわれがあります。
「地球温暖化」−−−人類史的な危険が発見された
さらに、「社会的理性」を問われている最大の人類的危機は、地球温暖化の問題です。
地球が、人類をはじめ生物の生存のための安全装置をもっていることをご存じでしょうか。“地球大気”です。大気の層が厚く地球をおおっていることが、地球に降り注ぐ紫外線などの悪影響や地表温度の高熱化から生物を守り、その生存を保障しているのです。
ところが、この“生命維持装置”がくずれて、地球の大気や海水の温度が上昇しはじめていることが、40年ほど前から問題になっていました。安全機能の鍵を握るのは、大気中の二酸化炭素(C02)の量ですが、この濃度の上昇が危険水域に入っていたのです。
原因が、人間社会のエネルギー消費量の急カーブの増加にあることも、すぐ明らかになりました。主要なエネルギー源は、石油・石炭などの化石燃料ですが、問題の根源は、その燃焼とともに吐き出す二酸化炭素の増大にありました。
人類のエネルギー消費量は、『資本論』刊行の時代には、年間4億8000万トンあまり(原油換算)、それが、最近では320億トン以上にまで急増して(2014年)、地球大気の変質を引き起こしていたのです。問題は「生産のための生産」を旗印にした資本の活動にありました。
人間社会がこの危険との闘争に立ちあがる転機となったのは1997年の「京都会議」でした。まさに“祭りは終わった”のです。
資本主義の存続の是非が問われている
国連は、2050年までに「先進国」は温暖化ガスの排出量を80%以上減らし(1990年基準)、世界全体で50%以上減らす、という目標を提起しました。まさに人類の生存を守る闘争目標です。これをやり抜く力をもたない社会体制には、人類の危機に対処する能力をもたない体制として、人類史的な審判がくだされるでしょう。
ところが、アメリカのトランプ政権は、「地球温暖化」はウソだといって、このたたかいからの離脱を公然と宣言しました。それに次ぐだらしなさで「先進国」の筆頭に立つのが日本です。この二つの国の資本主義は、人類社会の目から見ても、経済を管理する「社会的理性」を放棄した社会とみなされざるをえないでしょう。
(つづく)
(「しんぶん赤旗」2017年8月2日より転載)