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南相馬 柳美里が出会う㉕・・本屋の名前は「フルハウス」

2年3ヵ月を過ごした家で

 神奈川県の鎌倉市から福島県の南相馬市に転居して、2年3ヵ月が過ぎました。6月19日に、JR常磐線小高駅の近くの古家付きの土地を2千万円で購入しました。ネズミなどに障子戸や柱がかじられていたり、給湯器や換気扇やエアコンの室外機が故障したりしているので、いま、専門業者に修繕と清掃をやってもらっています。

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 わたしたち家族は、7月2日に原町区から小高区に引っ越します。市内の移動と言うと、近所に引っ越すのだな、と思われる方もいらっしゃるでしょうが、10年前に3つの自治体が合併して誕生した南相馬市は、神奈川県の湘南地方とほぼ同じ面積を有しています。つまり南相馬市内でも、相馬市に隣接している鹿島区の端と、浪江町に隣接している小高区の端では、小田原と葉山くらいの距離があるのです。

 原町区の借家は東京電力福島第1原子力発電所から北に23キロ離れたところにありますが、14キロ地点にある小高の家は旧「警戒区域」内ということになります。2011年4月22日に、原発から半径20キロ圏内が「警戒区域」に指定されました。その後、放射線量に応じて、低い順に「避難指示解除準備区域」「居住制限区域」「帰還困難区域」に再編成され、避難指示は(「帰還困難区域」を除いて)次々に解除されています。

 小高区の避難指示が解除されて、もうじき1年になりますが、原発事故前に1万2842人だった住民は、5月31日時点で2255人です。住民説明会では、放射能に対する不安よりも、スーパーマーケットやホームセンターや個人商店や病院や介護施設などが戻ってこない現状を行政主導でなんとかしてほしい、という要望が多かった。

 行政側はいくつかの支援制度を立ち上げてはいるのですが、帰還住民数が少なければ、商売として採算が合わないし、従業員も確保できない、という理由で事業者は二の足を踏んでいます。事業者側は住民が帰るのを待ち、住民側は事業者が戻るのを待ち―、という現状は時を経るごとに重くなり、動かすことが難しくなっているように感じます。小さな針穴でもいいから、現状に穴を開けたい―。

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  わたしは、小高の自宅1階を改装して本屋にするつもりです。今年の4月に、小高工業高校と小高商業高校が統合し「小高産業技術高校」が誕生しました。この6年間仮設校舎での学校生活を余儀なくされていた生徒たちは、小高に戻ることになりました。503人の小高産業技術高校生が毎日通学しているのです。仙台方面の最終電車である小高21時19分発の常磐線に乗る生徒もいます。

 生徒たちが安心して待ち時間を過ごせる第二の駅舎になるような店づくりを目指します。本屋の名前は「フルハウス」。わたしが20年前に初めて出版した小説集のタイトルで、大入り満員という意味です。

ゆう・みり作家写真も筆者)   (月1回掲載)

(「しんぶん」赤旗2017年6月26日より転載)