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大飯原発 運転差し止め訴訟 住民側新たな報告書・・「揺れ過小評価」裏付け 控訴審

 関西電力大飯原発3、4号機(おおい町)運転差し止め訴訟の控訴審で、住民側弁護団は5日、名古屋高裁金沢支部に新たに報告書などを提出した。元原子力規制委員長代理の島崎邦彦・東京大名誉教授(地震学)が前回の証人尋問で指摘した「関電が想定する最大の揺れは過小評価」との証言を裏付ける内容としている。

 4月の第11回口頭弁論で島崎氏は、大飯原発の基準地震動(関電が想定する強い揺れ)を算出する際、現在使われている計算式では過小評価になることなどから「規制委の安全審査は不十分だ」と指摘した。

 今回提出した報告書は、独立行政法人「防災科学技術研究所」が新潟県中越沖地震や能登半島地震などを受け2008~12年度にかけて実施した日本海側の活断層などの調査結果を例に挙げ、「地震発生層を把握するには地下約3~15キロの地質調査が重要だが、大飯原発では地下約300メートルしか調査されていない」と指摘。来月5日の第12回口頭弁論では、1、2号機の地下の地盤データが非公開であることなども踏まえ、原発の耐震設計のための調査が不十分だと改めて主張する方針という。

 弁護団長の島田広弁護士は「規制委の安全審査は大飯原発の安全性を担保するものではない。住民の安全を守るのは裁判所しかない」と話した。【日向梓】

(「毎日新聞・電子版」2017年6月6日より転載)


大飯原発3、4号機運転差止請求控訴審(平成26年(ネ)第126号) 

大飯原発敷地および敷地周辺の地下地質構図の掌握に関する資料

日本科学者会議原子力問題研究委員会委員 山本雅彦

1、はじめに

 大飯原発3、4号機運転差止請求控訴審で、名古屋高裁金沢支部の内藤裁判長も指摘したとおり、基準地震動の策定が適正になされたか否かが、重大な争点の一つである。これが解明されないまま判断がなされることがあってはならない。

 関西電力が大飯原発敷地周辺の地質・地下構図の掌握のために行った調査と、独立行政法人・防災科学技術研究所(ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクト図1)の行った最新の知見を反映したとされる調査(2008~2012年度)とを比較し、関電が行った調査の不十分さを示す。

(ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクト)

2、ひずみ集中帯の重点的調査・観測と研究について

 ひずみ集中帯の陸域及び海域で自然地震観測を行い、このデータに基づいて高精度な震源分布、3次元地下構造を得るとともに、人工地震などを用いた海陸の地殻構造探査、浅部地下構造調査などを行い、ひずみ集中帯の活構造、断層形状などを明らかにする。

 さらに、GPSによる地殻変動観測によってひずみ蓄積の現状を明らかにするとともに、活断層の地形地質調査に基づき、変動構造・地殻ひずみ速度を明らかにする。河川の堆積作用によって生じた平野における浅部・深部統合地盤モデルを構築するとともに、震源モデル化手法の高度化を行う。

 また、過去に起きた全ての地震の歴史資料調査に基づき、過去の地殻活動を明らかにする。

 以上の結果を総合して、ひずみ集中帯の活構造の全体像を明らかにするとともに、強震動計算に基づく検証を踏まえて最終的な震源断層モデルを構築することにより、ひずみ集中帯で発生する地震の長期評価の精度向上や強震動予測の高度化をすることができる。

 

↑↓ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクト成果(H20~H24)
「日本海における大規模地震に関する調査検討会」の資料

 

3、関電の大飯原発敷地および周辺の地下地質構造の調査・観測は不十分

 関西電力は、大飯原発の基準地震動を策定するにあたって、最新の地震動評価手法を用いて、検討用地震の地震動評価を行っている。そのため、大飯原発に基準地震動を越える地震動が到来することはまず考えられないといい、そのために必要な、原発敷地と周辺の地下地質構造を掌握するための調査・観測(PS検層、試掘坑弾性波探査、反射法・屈折法地震探査や,本件発電所敷地および敷地周辺における常時微動記録を用いた微動アレイ観測、地震波干渉法)などによる多角的な検討をもとに地下構造評価を行っているという。

 本来、地下地質構造から原発の基準地震動を策定する場合には、原発敷地・周辺の地下5〜20㎞の地震発生層といわれる地下地質構造を調べることは決定的に重要である。

 

 しかし、関電の調査は不十分で、せいぜい大飯原発敷地・周辺の0〜3、4㎞の地下地質構造に限られている(海底については海底から0〜300m)。

 

4、「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクト」と関電が行った調査・観測を比較する

陸海域の調査・・

 ・関電は海域0〜300mの地層、陸域で0〜1,500m、地震波干渉法で0〜4㎞

 ・ひずみプロジェクトは0〜15㎞および陸海統合で0〜30㎞まで取得

 島崎邦彦・元規制委員長代理は、裁判で「大飯原発の基準地震動は必要な審査を怠っている」ため、まだ許可を出すべきではないと証言した。

↑図=陸海統合による地殻構造探査の概念図(東大地震研究所の資料に加筆)

 具体的には、「音波探査は、海底200m〜300mの地層がある程度分かるというレベルのもので、詳細な調査といってもほとんど表層だけということ。一方で地震発生層の厚さは一番深いところで15kmなわけです。3000m から 1 万 5000mのところに震源断層が存在しているはずだが、わずか200mの調査で詳細な状態がわかるのか。わかりえませんね。だけどこれを詳細な活断層調査と言っているわけです」と話した。

 

 

 

関電が行ったとする調査の概要(関電資料より)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓図=2009会津-佐渡測線・・2009年には海洋研究開発機構と共同で、会津から新潟平野、佐渡島を経て大和海盆中軸部に至る大規模な海陸統合地殻構造探査を実施した。佐渡海峡においては、ケーブル船と発震船を分離した二船式によるデータ取得によって、分解能の高い深部までの反射構造を得ることができた(図5)。(東京大学地震研究所・佐藤比呂志氏の資料より)

 

 

↓図=東山−三島測線西部の反射法断面。デダッチメント(離脱・乖離)が発達し、浅部と深部の構造が異なる。(東京大学地震研究所・佐藤比呂志氏の資料より)