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せめぎ合う司法での闘い・・3つの原発関連裁判から見えてくるもの(「週刊京都民報」2017年5月14日より)

大河原壽貴・弁護士

〈寄稿〉京都脱原発訴訟弁護団 大河原壽貴

■役割放棄する高裁不当決定

 本年(2017年)3月、原発をめぐる裁判で3つの判決・決定が立て続けに出されました。1つ目は3月17日、福島第一原発事故による被害者が国と東京電力を相手に損害賠償を求めた訴訟の前橋地裁判決です。2つ目は3月28日、高浜原発3、4号機の運転差止めを求めた仮処分の抗告審での大阪高裁決定です。3つ目は3月30日、伊方原発3号機の運転差止めを求めた仮処分の広島地裁決定です。

(写真上=再稼働の強行が狙われている高浜原発〔左から〕3、4号機。写真下=大阪高裁の不当決定に抗議する原告・弁護団〔3月28日、同高裁前〕)

 このうち、大阪高裁決定は、昨年(2016年)3月9日、大津地裁が高浜原発3、4号機の運転差止めを認めた仮処分決定を取り消し、高浜原発の再稼働を容認する極めて不当な決定です。大阪高裁は、新規制基準を「安全性の基準」であり、「福島第一原子力発電所事故の原因究明や教訓を踏まえていない不合理なものとはいえない」などと判示した上で、あたかも新規制基準に適合しさえすれば安全性に問題はないとの姿勢を示しました。新規制基準に対しては、基準地震動の問題や、安全設備などシビアアクシデント対策の問題、立地審査基準や避難計画の問題など、様々な問題点が指摘されています。さらには、福島第一原発事故はいまだ収束せず、事故原因の調査すらまだ道半ばです。にもかかわらず、大阪高裁は、これら新規制基準の問題点や原発の危険性について自ら判断しようとしなかったのであり、まさに行政追随、司法の役割を放棄した決定だと言わざるを得ません。

 司法の役割を放棄したという点では、広島地裁決定も同様です。とりわけ、広島地裁決定は、その理由の中で「審理する裁判所によって、司法審査の枠組みが区々となることは、事案の性質上、望ましいとはいえない」などと述べた上で、川内原発の再稼働を容認した福岡高裁宮崎支部決定を「新規制基準に適合する旨判断された原発の差止めを求める仮処分申立事案における(中略)唯一の確定した抗告審決定である」として、自ら司法審査の枠組みについて検討することなく、高裁決定に盲従しました。憲法が定める裁判官の職権行使の独立を自ら放棄するに等しく、極めて問題の大きな決定だと言わなければなりません。

 昨年8月、原子力規制委員会は「実用発電用原子炉に係る新規制基準の考え方について」という300㌻以上にも及ぶ見解を公表しました。国や各電力会社は、各地での仮処分や訴訟において、この原子力規制委員会の見解をもとにした主張を展開し、大阪高裁決定や広島地裁決定もその主張をなぞるような決定を出しています。本来、電力会社を規制するはずの委員会が、事実上電力会社への肩入れとなるような見解を公表してはばからないのです。これでは、政府・行政と電力会社が一体となって原発を推し進め、安全神話を振りまき、その結果、福島第一原発事故を引き起こした、事故前の状況と何ら変わらないのではないでしょうか。

■事故の国責任認める初判断

 一方で、福島第一原発事故被害者による集団訴訟として初めての司法判断となった前橋地裁判決は、事故を起こした東京電力に加えて、国が適切な規制を怠ったことを違法と認め、国にも東電と同等の責任があると認めました。この点では意義のある判決です。

 しかし、その一方で、それぞれの被害者に認められた被害額はあまりに低い金額でした。とりわけ避難指示区域外の被害者については、被害額はわずか数十万円程度に過ぎないとされました。原発事故のため、ふるさとを離れての避難を余儀なくされ、家族がばらばらになった方も少なくない、そのような被害者の精神的苦痛をその程度にしか捉えることのできない裁判所の姿勢は厳しく指摘されなければなりません。

 この前橋地裁判決の姿勢は、現在、安倍政権が、福島第一原発事故の被災地域の避難指示を解除し、支援打ち切りとセットで、被災者の「帰還」を推し進めていることと決して無関係ではないと考えられます。そこにあるのは、放射線被ばくによる健康影響を過小評価し、福島第一原発事故とその被害をあたかも終わったかのように見せようとする姿勢です。このような姿勢を許してはなりません。

■世論と運動の力で包囲を

高浜原発3、4号機(福井県高浜町音海地区)

 福島第一原発事故後、福井地裁決定や大津地裁決定など、原発の危険性に正面から向き合う決定も出されました。しかしながら、大阪高裁決定と広島地裁決定は、その逆流といえる動きであり、今まさにせめぎ合いの中にあります。裁判所は、世論の動向に敏感です。原発再稼働を許さず、原発ゼロの社会をつくる、この世論と運動で裁判所を包囲してこそ、画期的な判決を勝ち取ることができます。ご一緒に頑張りましょう。

(「週刊京都民報」2017年5月14日より転載)