「元の自然豊かな土地と環境を取り戻し、バトンタッチしたい」。福島県伊達郡桑折町でモモを栽培する相原豊治さん(69)と京子さん(65)夫妻の願いです。
東京電力福島第1原発から65キロ離れている桑折町。ここでも原発事故は、生産者の努力を台無しにし、相原さん家族の夢を奪いました。
長男は、会津地域で農業関係の仕事をしています。将来は実家で果樹栽培を担う予定でしたが、「当面は、現在の職を継続することになった」と相原さん夫妻は侮しさをにじませました。
■1個500円が暴落
桑折町は高品質のモモを生産してきた地域です。相原さん夫妻が作るモモも、重量、形、着色、糖度、熟度など光センサーによる検査で、常に高得点を獲得してきました。
しかし、原発事故後にモモの価格は大暴落。1個500円でも買ってもらうことができたモモが半値以下」になりました。
以前は、品質を選別する共選所に、・等級落ちして格安となった2級品、3級品を求める人の列が数百人になったこともありましたが、「事故後は大幅に減り、まったく並ぶ人がいない日もあった」といいます。
豊治さんのモモ作りの基本は「おいしいもの、安全、安心なものを作るために必要なことは、一生懸命やろうじゃないか」。
日当たりの良さが良質のモモを作ることから、収量を犠牲にして木と木の間隔をあけました。長年かけて土作りや農薬を減らすことにも取り組んできました。
■人口1割原告に
事故のあとは、木の表面から放射性物質が吸収されないよう全ての木を高圧洗浄機で水洗いし、出荷するモモは、放射線量の測定をして安全を確保しています。しかし「消費者からは『ゼロではないでしょう』と言われます。それがつらい」と心境を吐露します。
豊治さんと京子さんは「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟に加わり、原告回福島支部・桑折町の世話人をしています。
京子さんは「国と東電を相手にしたたたかいです。当面、桑折町の原告数の目標は120人ですが、人口の1割の1200人は組織しないと勝てない」と力を込めます。
豊治さんが国に望むのは「農地の除染の方法を開発してほしい」ということです。土を反転させて除染する方法では、樹木の根を切断するため果樹園の除染には活用できません。また、自身の健康被害も心配です。「国と東電に原状回復させるたたかいが重要だ」と強調します。
京子さんは言います。「私たちの苦しみを国も東電も知っているのでしょうか。再稼働など、とんでもないことです。原発はゼロにする。なくすべきです」
(菅野尚夫)