鹿児島県薩摩川内市にある九州電力川内原発。1、2号機の新規制基準の適合審査が進み、再稼働が全国で最も早く狙われていると住民の不安が高まるなか、原発の過酷事故を想定した避難計画で弱者が置き去りになっています。
(鹿児島県・園山絵理)
川内原発の30キロ圏内の緊急防護措置区域(UPZ、放射線量が毎時500マイクロシーベルトで避難など)には、薩摩川内をはじめ、市がほぼ20キロ圏内に入る、いちき串木野を含む9市町、約21万7000人が入ります。9市町の広域避難計画の策定は大幅に遅れ、昨年(2013年)12月末にようやく出そろいました。計画では避難は原則自家用車を利用。約80キロ離れた薩摩半島最南端の指宿市や県境を越え熊本県に避難する地域もあり、渋滞の心配や、指定されたいくつもの避難経路に従って無事に避難所にたどり着けるのかと不安の声が上がっています。
1万人手つかず
さらに問題なのは、寝たきりや介護が必要な要援護者の避難対策が全くとられていないことです。県によるとUPZ内には約240ヵ所の福祉施設に、約1万人の対象者がいますが、対策は手つかずのままです。
川内原発から5キロ圏内の予防防護措置区域(PAZ)は放射性物質が放出される前に避難できるようにする即時避難地域。その地域にある7ヵ所の病院やグループホームなどの福祉施設の要援護者対策も全くできておらず、対象者は約360人にのぼります。福祉施設は独自に対策を求められています。
ある施設関係者は、「どのような計画をしていいかわからず、全く手がついていない。入居者や家族に不安を与えないよう市や県の支援を待ち、避難計画を考えたい」と話します。独自に避難先を確保することは相当な労力と資金が必要なため、避難先の確保ができず移送手段や避難経路も策定できていないのが現状です。
人命軽視の知事
県と薩摩川内市は昨年12月、施設の避難計画が年度内に策定できるよう受け入れ先の確保を支援すると施設側に説明しました。
市の担当者は、「要援護者を移送するための担架や車いすなどの資源は市だけでは足りない。近隣の市町にも支援をお願いする」と話します。避難先の確保を支援する県の担当者は「実際は、どの施設も満床が多く、なかなか空いていないのが現状だ。5~30キロ圏内は来年度以降になる」と話しました。
日本共産党のまつざき真琴県議は、伊藤祐一郎県知事の「避難計画は再稼働の要件にしていない」とする立場を批判し、「県民の命をあずかる知事として避難計画の未整備は人命軽視といえる。実効ある避難計画なしに再稼働は認められない」と話します。さらに「過酷事故が起きれば、避難は困難を極めることは明らか。このような避難を強いる原発は人類と共存できない」と話しています。