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核実験再開 歯止めなし・・日印政府 原子力協定に署名

インドの原発(商用運転中) ○数字は基数 インドでは1973年に最初の商業炉が稼働。現在、21基の商業炉が運転中です。建設・計画中のものを含めると80基を超える規模になります。  一方、核兵器開発では74年に最初の核実験を行い、98年に2度目の核実験を強行。世界に大きな衝撃を与えました。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、現在100~120発の核弾頭を保有しています。
インドの原発(商用運転中)
○数字は基数
インドでは1973年に最初の商業炉が稼働。現在、21基の商業炉が運転中です。建設・計画中のものを含めると80基を超える規模になります。
 一方、核兵器開発では74年に最初の核実験を行い、98年に2度目の核実験を強行。世界に大きな衝撃を与えました。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、現在100~120発の核弾頭を保有しています。

 安倍音三首相は11月11日夜、インドのモディ首相と首相官邸で会談し、両政府は日本からインドヘの原発輸出(核物質、資機材、設備・技術)を可能にする原子力協定に署名しました。

 日本が核不拡散条約(NPT非加盟国と原子力協定を結ぶのは初めて。第2次安倍政権発足後、加速している原発輸出の動き(別項)は重大な段階に入りました。

 1998年以降、核保有国となったインドヘの原発輸出は核兵器開発を後押しするものであり、「唯一の被爆国」としての日本の道義的立場を放棄することになります。

 協定は、日本の協力は「平和的非爆発目的に限って行う」と明記。加えて、協定とは別に交わした「見解及び了解に関する公文」で、インドが2008年に宣言した核実験の一時的停止(モラトリアム)に反して核実験を行った場合、協定の期間中であっても協力を停止できるとの日本側の考えを示しました。また、その場合のインドからの補償請求に異議を申し立てる権利を留保するとしています。

 ただ、協定とは別文書であり、インド側は「(08年の声明を)再確認する旨述べた」とするにとどめています。核実験再開の歯止めになる保証はありません。

 

軍縮部門外し官邸主導

岐阜女子大 南アジア研究センター長補佐 福永正明さん
岐阜女子大 南アジア研究センター長補佐 福永正明さん

岐阜女子大 南アジア研究センター長補佐 福永正明さん

 インドが核実験をすれば協力を停止するというのは、核実験をするまでは協力するということ。また、核実験をしたらそれまで協力したすべての資材を引き上げるというが、現実的ではない。この条件は実質的な歯止めにならないでしょう。

 ただ、「実験をしたら協力停止」との立場を少なくともポーズとして示さざるを得なかった。この論点は民主党政権時代の2010年に岡田克也外相が「被爆国が核兵器国に原発を売っていいのか」という批判を受けて加えたもの。国民の批判や反対運動がさまざまな形で圧力をかけたことの結果ではあります。

 協定締結に反対して市民団体と一緒に政府交渉を続けてきましたが、外務省は交渉に関する情報を一切出そうとしなかった。野党の国会質問にも答えませんでした。情報を出さなかったのはインド側も同様で、今後は両政府がそれぞれ都合のいい形で国内に説明をしていくのでしょう。

 この協定が核軍縮に反するのは明らかですが、外務省ではある段階から軍縮担当の部門が協定の準備作業から外され、首相官邸と外務省幹部が主導権を握っていったと聞いています。

 与党内で「平和」を掲げる党も批判のトーンを下げた。平和主義とは何なのかが問われています。

 

インド国民の暮らし脅かす

印反核団体「核軍縮平和連合」 クマール・スンダラムさん
印反核団体「核軍縮平和連合」 クマール・スンダラムさん

印反核団体「核軍縮平和連合」 クマール・スンダラムさん

 インドは2008年に米国と原子力協定を結んで以来、外国技術による核エネルギーの大規模開発に乗り出し、すでに多くの国と協定を結んでいます。日本との協定はその集大成で、巨大なデザインを完成させる「パズルの最後の1ピース」を意味します。

 これは原発だけではなく、核兵器開発の後押しにもなります。

 協定によってインドは、核燃料や核技術を各国から輸入できるようになります。インドではウランが採れる。輸入した核燃料を発電に回せば、国産ウランの全てを核兵器に使うことも可能になります。

 インドは国際社会の監視を受けず核兵器を開発できる特殊な地位にあります。08年に日本を含む核供給国グループ(NSG)がインドの「特別扱い」を全会一致で決め、軍事用施設は国際原子力機関(IAEA)の査察対象外となったからです。

 インド主要メディアは原発や核武装を支持しています。しかし原発の地元や計画地では、農民や漁民による草の根的な抗議運動が続いています。日印協定で原発輸出が加速すれば、インド社会の最も弱い立場の人々の暮らしが脅威にさらされます。逆にインド政府から見れば、被爆国である日本がインドの核開発にお墨付きを与えたと主張することができるでしょう。

 (いずれも聞き手 安川崇)

 

 

「核兵器のない世界」に逆行 対北朝鮮でも筋通らず

 11月11日に署名された日印原子力協定は、広島、長崎の被爆経験を持つ日本がインドの核軍拡を助長し、「核兵器のない世界」に逆行する重大な内容です。

 インドは核不拡散条約(NPT)も包括的核実験禁止条約(CTBT)も批准しておらず、核不拡散体制の枠外にあります。日本の資機材や技術を使用した原発が建設され、稼働により発生した使用済み核燃料の再処理で抽出されたプルトニウムが、乏しい国際的な監視で軍事転用される可能性があります。

 合意文書では、核実験を行えば協力を停止するとしています。しかし、その旨を協定とは別の文書に盛り込んでおり、インド側か必ず停止措置に従うとも明記していません。

 そもそも、核実験以前に抽出されたプルトニウムや、輸出した資機材をただちに回収できるわけではありません。日本の協力で建設された原発から抽出されたプルトニウムが核実験の原料になることすら否定できません。

 また、いまだに福島第1原発事故が収束しておらず、多くの住民が避難を余儀なくされ、廃炉のめどすら立っていないもとで、世界中に原発を売り込む安倍政権の姿勢はあまりにも非倫理的です。

 さらに、日本の安全保障にも否定的な影響を与えます。日本に対する弾道ミサイル攻撃能力を有する北朝鮮もNPTから脱退し、CTBTも批准しておらず、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けることのないまま核兵器開発を加速しています。

 日本は北朝鮮が核実験を行うたびに強く非難し、核開発の中止を求めています。しかし、一方でインドの核開発に手を貸しておきながら、北朝鮮に核の放棄を迫るのでは、足元を見られても仕方がありません。

(竹下岳)

  第2次安倍政権以降の原発輸出の動き

2013年4月   トルコと原子力協定を締結

 13年5月    アラブ首長国連邦と原子力協定を締結

 14年12月 サウジアラビアと協定の交渉開始で合意

 16年11月 インドと原子力協定を締結

  【第2次安倍政権以前に原子力協定を締結した国、地域】カナダ、豪州、中国、米国、フランス、英国、欧州原子力共同体(ユーラトム)、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア

※外務省資料を基に作成

(しんぶん」赤旗2016年11月12日より転載)