原子力規制委員会は11月9日、九州電力玄海原発3、4号機(佐賀県玄海町)が新規制基準を満たすと判断し、事実上の合格証に当たる審査書案をまとめました。玄界灘に面した同原発は、重大事故に備え住民の避難計画が必要な半径30キロ圏が佐賀、福岡、長崎3県にまたがります。圏内の人口は7市1町で約26万2800人。このうち17の離島に約1万9200人が暮らしますが、秋から冬にかけて吹く北風で波が高くなることがあり、船舶などを使った避難に課題が残ります。
17の離島で最も人口が多い長崎県壱岐市は、本島の南部が30キロ圏に含まれます。市の防災計画では、原発事故で高い放射線量が計測された場合、全住民約2万8000人のうち、南部の約1万5200人はマイカーなどで圏外の北部に避難します。市危機管理課の担当者は「風向きによっては、北部を含めた全島民の避難が必要になることもある」と予測します。
2013年から毎年、3県合同で原子力防災訓練を実施していますが、昨年と今年は荒天のため、福岡県に向かう広域避難訓練の一部が中止になりました。担当者は「冬は民間の高速船が欠航することも多い。事故が発生すれば、島外に避難できないこともあるかもしれない」と懸念します。
天候不良などで脱出できない場合、住民は放射線防護対策施設に避難します。放射性物質の流入を防ぐフィルター付きの空調設備などを備えた施設で、佐賀県と福岡県は公民館や学校を改装するなどして整備を終えたとしています。
壱岐市は本島以外に有人の離島3島を抱えますが、防護施設は1島で建設が進むだけで、本島を含む3島は末整備。長崎県危機管理課は国に早急な整備を求めていますが、「来年度以降の整備になると聞いている」といいます。
壱岐市南部に住み、玄海原発の再稼働に反対する中山忠治さん(68)は「全島避難となれば、3万人近くをどうやって避難させるのか。パニックになることは目に見えている」と市の防災計画を批判。「対策がないままの再稼働はあり得ない」と声を強めました。
(「しんぶん」赤旗2016年11月10日より転載)