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福島原発 増える汚染水・・タンク 余裕なし 海への放出狙う

 東京電力福島第1原発事故。5年たった今も、放射能汚染水が焦眉の問題となっています。毎日500トン規模で増え続けている汚染水のタンク容量は逼迫。汚染氷の増加を抑制するための「凍土壁」は、準備工事が2月に完了したものの運用に課題が残り、凍結開始は遅れています。ようやく昨年(2015年)、汚染地下水の海への流出を防ぐ「海側遮水壁」が完成しましたが、結果的に、建屋内の汚染水を増やすという事態も生じました。一つの問題を解消しても、次々と新たな問題に見舞われています。(唐沢俊治)

タンク 余裕なし 海への放出狙う

(図=上)「海側遮水壁」の図
(図=上)「海側遮水壁」の図

 1〜4号機建屋地下には、事故で溶け落ちた核燃料にふれた高濃度の放射能汚染水がたまっています。3号機建屋地下の汚染水には、いまも1リットル当たり3300万ベクレルのセシウム137が含まれています。それが、建屋に直接流入する地下水と、建屋周辺でくみ上げて移送している汚染地下水と混ざって、日々増え続けています。

 汚染水は、各種の処理装置でセシウムやストロンチウムなどの放射性物質を除去した後、タンクに貯留していますが、タンク容量合計94万トンに対して汚染水は約80万トンに上っています。

 東電は、容量を確保するために溶接型タンクを増設しているほか、過去に汚染水漏れ事故を起こし危険性が高いため使用をやめるはずだった組み立て式の「フランジ型タンク」の使用も継続する方針です。

 処理済みの汚染水には、62種類の放射性物質を除去する「多核種除去設備アルプス)」でも除去できないトリチウム(3重水素)か国の定めた基準よりはるかに高濃度で含まれ、予定の性能が出せずに除去できなかった放射性物質も含まれています。

 田中俊一・原子力規制委員長は、処理済み汚染水を海に放出するよう繰り返し発言しています。

海側遮水壁 一難去って

 海への汚染水流出の対策では、この1年で進展がありました。一方、想定外の事態が生じています。

 2〜4号機タービン建屋から海側に延びる「海水配管トレンチ(配管やケーブルを収納している地下トンネル)内には、高濃度汚染水がたまっており、大きな懸念事項でした。トレンチの汚染水の抜き取りは難航しましたが、昨年(2015年)12月に完了しました。

 汚染地下水の海への流出が長い間続いていた問題でも、昨年10月に「海側遮水壁」がようやく完成しました。

 海側遮水壁は、全長780メートルの鋼鉄の壁で護岸を囲うことで、汚染地下水の流出を防ぐ計画です。地下水をダムのようにせき止めるため、上流側の地下水をくみ上げる必要があります。建屋周辺や護岸の井戸から汚染地下水をくみ上げて、処理した後に海に放出する「サブドレン計画」の運用も始めました。

 1日当たり約300トンだった建屋への地下水流入量は、ほぼ半減しました。

 ところが、護岸の地下水の一部が予想以上に汚染濃度が高くなっており、処理しても海に放出できず、建屋地下に移送せざるを得なくなったのです。海側遮水壁の完成後、結果的に、建屋地下の汚染水の増加量は1日当たり500トン規模に増えてしまいました。汚染水問題の困難さを示す出来事です。

凍土壁 管理に課題

 1〜4号機建屋周辺の土壌を凍らせることで地下水の流れを迂回させ、汚染水増加を抑制する「凍土壁(陸側遮水壁)計画」。国費約345億円を投入し、凍結に必要な工事は2月9日に完了したものの、まだ運用は開始していません。

 国と東電は、凍土壁が完成すれば、地下水の流れがせきとめられ、汚染水の発生量を大幅に減らせると期待しています。一方、地下水位が下がりすぎると、建屋内の汚染水が周辺の土壌に流出する危険性があります。このため、建屋内の水位よりも周辺の地下水位を高く管理することが、凍土壁の最大の課題です。

 もし想定外の事態が生じた場合、凍結運転を停止し自然融解して地下水位が回復するまで8カ月以上、凍土壁を部分撤去した場合でも3ヵ月以上かかるといいます。

 このリスクを回避するため、東電は、地下水位の変化を見ながら段階的に運用する計画です。

 第1段階として、海側全面と山側95%を凍結。地下水の流れを約50〜60%遮断できると東電は見込んでいます。原子力規制委員会は早ければ今月中に認可する見通しです。

 ただ、試験凍結でも「凍りにくい部分」が生じており、全面運用が本当にできるのかは不透明。効果も未知数です。

 

福島県廃炉安全監視協議会専門委員 福島大教授(水文地質学) 柴崎直明さん・・正しいデータの公開・検証こそ

 さまざまな汚染水対策がとられていますが、そのたびに思わぬトラブルが起こっています。

 地層構造や地下水の流れやすさなど、地下の様子は複雑です。凍土壁について、科学的データが不足し、狭い範囲の試験凍結なのに、東電は「凍る」と言います。しかし、地下水が流れやすく、凍らない部分が出てきて、想定した効果があるか不安です。

 凍土壁の運用後、一定の地下水位を保つのは困難です。24時間監視しながら、何か起こったとき、放射線型が高いところで機敏に対応できる体制を整えることができるのか。入念に準備しておかなくてはいけない。

 東電は、情報公開、正しいデータを公開する姿勢が不足していると思います。さまざまなデータを公関していますが、断片的で、データの持つ意味が確認しづらい。どういう条件で測ったものか、そういう情報がないと、データの価値はなくなります。

 必要な調査をきちんとした上で、都合よくデータを解釈するのではなく東電や国以外の専門家の観点から、実際の状況がどうなのか検証することが必要です。

(「しんぶん赤旗」2016年3月12日より転載)