仮設住宅から、ようやく災害公営住宅に移れる・・。夢の実現を目前に、引っ越し代金を捻出できないために希望を絶たれそうな被災者がいます。
宮城県南三陸町内の同じ仮設住宅団地に住む菅原治さん(67)と今野正さん(69)=ともに仮名=は一人暮らしです。災害公営住宅への入居が決まっていますが、2人とも浮かない表情です。菅原さんは9カ月仕事がなく、今野さんは月約5万円の年金収入。約20万円の引っ越し代が捻出できません。
仮設住宅から災害公営住宅への引っ越し代金は、国からの復興交付金を使い補助をうけることができます(上限80・2万円)。ネックは引っ越し代金を被災者がいったん負担しなくてはならないことです。補助金が振り込まれるまで1カ月から2カ月かかります。
被災者の生活相談に乗ってきたボランティア組織「ライフワークサポート響(ひびき)」代表の阿部泰幸さん(54)が実情を知り、南三陸町への要請を重ねてきました。
阿部さんは県内の東松島市で昨年12月から救済制度が始まっていることをつかんでいました。同様の相談を受けていた同市では、市が登録業者を定め、引っ越し代の請求を市にしてもらい、市が業者に直接支払う「引っ越し費用の受領委任払制度」をつくりました。
県内では、仙台市、気仙沼市、七ケ浜町でも、制度は若干異なりますが、引っ越し費用支払いが困難な被災者を救済する制度があります。
「東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター」世話人でもある阿部さんから情報提供と相談を受けた日本共産党の小野寺久幸南三陸町議は、3月4日の町議会でこの問題を取り上げ、「仮設住宅で大変な生活をしてきた被災者が、ようやく災害公営住宅に移れると思ったときにつまずき、『いっそ津波に流されていたらよかった』などとひどく落ち込んでいる」と救済制度を求めました。
佐藤仁町長も「引っ越し代金の一時的な負担が困難な人に対しては、受領委任払制度の構築をしていきたい」と答弁。復興事業推進課長は、4月の新年度から開始する意向を表明しました。
菅原さん、今野さんと同じ仮設団地でまとめ役を果たしてきた佐藤由和さん(68)が喜びます。「仲間で車を出して引っ越しするしかないかとも考えたけど、前例にされても困ると悩んでいた。恥だと思ってみんな口に出さないが、助かる人はいっぱいいると思う」
(原田浩一朗)
(つづく)
(「しんぶん赤旗」2016年3月8日より転載)