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「帰還宣言」4年余 福島・川内村は今・・生活と生業回復 道半ば/被災者に寄り添った施設こそ

仮設と住宅“二重生活”■損害賠償で格差が

NPO法人・昭和橫丁の代表理事の志田さん(右)と、日本共産党郡山地区・被災者支援センター責任者の大橋さん=郡山市の南1丁目仮設住宅
NPO法人・昭和橫丁の代表理事の志田さん(右)と、日本共産党郡山地区・被災者支援センター責任者の大橋さん=郡山市の南1丁目仮設住宅

 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故から5年、人間らしい生活と生業の全面的な回復をめざす復興と再生へ、いま何が必要か。「帰村宣言」から4年余の福島県双葉郡川内村の被災者の状況から考えてみました。

(中東久直)

 川内村の2011年3月11日の人口は3038人。森林が全体の9割を占める豊かな自然環境で、畑と田んぼ、山菜収穫など昔から林業が身近な地域です。

進まない″帰還″

 同村は原発事故後の同年4月、国による「警戒区域」(原発20キロ圈)と「緊急時避難準備区域」(原発20〜30キロ圈)の二つの区域に設定されました。その後、緊急時避難準備区域は同年9月に解除され、12年1月には、戻れる人から戻りましょうという村の「帰村宣言」がありました。村によれば(2016年)2月1日現在の人口は2764人(世帯数1248戸)で、「郵便物の送付先を村内にした方を帰還者とした人口」は1765人(63・9%)。

  ″帰還″は本格的にはすすんでいません。復興庁が2月19日に発表した住民意向調査結果では現在の住まいの場所が「震災発生当時の住居」46・6%、「当時の住居以外」26・6%、「当時の住居とそれ以外の住居を行き来している」17・7%。″二重生活″を強いられる人が相当数にのぼります。

 常磐富岡インター出口から川内村役場まで約30分。村内で出会った女性は「休日、自宅に泊まった時、村は暗かった。戻っているのは4割くらい。若い人は戻ってきていない感じ」と話しました。

 公設民営の農産物等直売所「あれ・これ市場」では震災後、村内の小売事業者が共同仕入れを行うなどしてきました。15日には公設民営複合商業施設がオープン予定。戻って3年以上になるという女性(75)は「やっぱり村は落ち着く。でも、まだ半分くらいで、友達も帰ってきていない」と話しました。

山林の除染必要

 一体関係にある双葉郡沿岸部の町村の医療・福祉、教育、買い物などの機能は回復していません。郡山市方面への道路は、冬は雪や凍結の心配があり、時間もかかります。

 「仮設住宅と元の自宅との二重生活。自宅の電気、電話、プロパンガスの基本料金もかかって大変です」というのは、郡山市の南1丁目仮設住宅で暮らす猪狩俊江さん(59)です。「夫は脳梗塞のリハビリが必要。まだ沿岸部の施設がきちんと機能していないので心配です」と話します。

 緊急時避難準備区域は11年9月に解除され、精神的賠償(1人月10万円)は1年後の12年8月まででした。郡山市の富田町稲川原仮設住宅に避難する女性(50)は「3ヵ月ごとに入金されていたけど、打ち切られるという仕組みは12年11月になって初めて知った」と憤ります。「除染したというけど、山林などの除染も終わらないでは戻れないし、復興したとは思えない」といいます。

 この女性と話していた遠藤友樹さん(30)もまだ、南1丁目仮設住宅で暮らしています。「2人の子どもがいます。これから支援はどうなるのか。村に戻っても働き先がない」

 川内村の一部地域にはまだ「避難指示解除準備区域」が残されています。国や県は「『帰還困難区域』以外の『避難指示解除準備区域』『居住制限区域』の避難指示を来年3月末までに解除、精神的賠償を1年後まで」「避難者の応急仮設住宅の供与期間は全県一律で、さらに1年延長し、来年3月末までとする。避難指示区域(15年6月15日時点)でのそれ以降については今後判断」との方向を示し、被災者に不安が広がります。

 高齢者の人権擁護のために、南1丁目仮設住宅を活動場所として13年に立ち上げられたNPO法人・昭和横丁。被災者世帯に毎月1回、米5キロや衣料品などを配布してきました。代表理事の志田篤さん(66)=無所属村議=はいいます。

 「高齢者はいろんな形で、もみにもまれてきた。帰りたい、帰れない、帰らない。一人ひとりの事情がある。もう少し余裕をもって、せめて生活再建の日程くらいは被災者に決めさせてほしい」

家族ばらばらに

 損害賠償の格差は不合理で人権問題だという志田さん。「村の447人が集まり、原子力損害賠償紛争解決センターに申し立て、審議が始まっている」といいます。

 日本共産党郡山地区・被災者支援センター責任者の大橋利明さん(66)は「多世代が同居して生計をたててきた家族がばらばらにされた。被災者に寄り添った施策の充実が大切です」と語ります。

 『原発災害はなぜ不均等な復興をもたらすのか』などの著書がある大阪市立大学教授の除本(よけもと)理史さんはいいます。

 「この5年間、事故被害の賠償がある程度進み、復興施策も積み重ねられてきた。その一方で、地域間の賠償格差が拡大し、復興から取り残される人たちも出てきている。これらは、政策の問題点によって引き起こされた二次的被害といってよい。『人間の復興』という観点から問題点を見直すべきだ」

tizu16-3-6

(「しんぶん赤旗」2016年3月6日より転載)