未曽有の被害をもたらした東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から5年を迎えようとしています。いまだに多くの人が生活再建もままならない現実。被災他のいまに迫ります。
「私たちはブルーシートで野外生活するようになるのでしょうか。やっと落ち着いた生活ができると思ったのに。なんで苦しみが続くのか」。宮城県石巻市の仮設住宅で暮らす吉田博史さん(65)、孝子さん(66)=ともに仮名=は、不安と怒りをにじませて訴えました。
少ない年金で生活する2人は災害公営住宅への入居を希望していますが、市の担当者から「無理です」と言われました。
「入居資格」の璧
災害公営住宅の入居資格は▽自宅(賃貸も含む)が全壊▽大規模半壊、半壊で解体した、という場合です。
吉田さんは、住んでいた賃貸アパートが津波で大規模半壊になり、住めなくなりました。「まわりの住人も災害公営住宅に入居が決まりだし、自分たちも当然、移れるものだと信じて疑わなかった」(博史さん)
しかし、思いもよらぬ事態になります。現在でもアパートが解体されていないので、「(入居資格を得るために)市の担当者から『自己都合ではなく大家の都合』でアパートを出たという添え書きを大家さんからもらうようにいわれたが、もらえていない」(孝子さん)というのです。
石巻市では、災害公営住宅を希望しながら、さまざまな理由で入居資格がないとされた世帯は400世帯以上に。ところが復興庁は「(被災3県の)具体的数は把握していない」状況。入居資格についても「国は細かい規定はしていない。自治体の判断にまかせる」と関与を避ける姿勢です。
宮城県内の仮設住宅入居者は今年1月時点で4万5000人以上。それにもかかわらず災害公営住宅整備の進行を理由に仮設の閉鎖を急ぐ一部自治体の動きが出ています。
吉田さんの相談にのっている「石巻住まいと復興を考える会連絡協議会」の佐立昭代表委員は「無資格だけでなく経済的理由で次の住まいが決められない被災者が多数いる。このままでは、『住まい難民』が相次いでしまう深刻な事態になる」と危惧します。
同会は、市にたいして「『住まい難民』を絶対につくらない支援を」と▽災害公営住宅の希望者全員の入居▽民間賃貸住宅に移るための家賃補助、などを申し入れました。
国の支援が必要
被災者の要望を受けて石巻市は、低所得者を対象に公営住宅に入居できるまで民間賃貸住宅の家賃を助成する事業を検討しています。しかし、家賃補助制度には数億円の予算が必要です。市生活再建支援課の今野善浩課長は「市単独では厳しい。財源は復興事業として国、県にお願いした」。国は「現時点では検討に時間がかかる」(復興庁担当者)と消極的な態度です。
佐立代表委員は、こう強調します。「生活再建の要となる住まいの復興は、自治体の力だけでは困難です。被災者の立場に立って、もっと国に応援してもらいたい」
(森近茂樹)
(つづく)
(「しんぶん赤旗」2016年3月3日より転載)