原発・石炭火力減 活気づく地方
4月から家庭用電力の小売自由化が始まります。一足先に自由化に踏み切ったドイツでは大きな変革が起こりました。ドイツのエネルギー事情に詳しい、干葉恒久弁護士に聞きました。(青野圭)
ドイツでは1998年に電力事業が全面自由化されました。EU(欧州連合)全体で一つの電力市場をつくるためです。当初、たくさんの事業者が参入して激しい競争となり、電力価格が大きく下がりました。
しかし、3、4年たったころから新規事業者がバタバタと倒産・撤退してしまいました。送配電網を自由に利用できず、高い利用料を求められたことが原因です。競争が消え大手企業の寡占状態が生まれると、電力料金が上がり始めました。
ドイツでは、地域ごとに小さな配電会社がありますが、その会社の料金が地域の料金水準を決めていました。新規事業者は地元会社より少しだけ安い料金で電気を販売するためです。多くの人がこれまでどおり地元の会社から買い続けているうちは、なかなか料金は下がりません。
国がルール
消費者が自ら電力を選ぶようにならないと、自由化は進んでいかない—。この教訓が2005年の制度改革につながりました。法律の改正で、消費者にわかりやすく情報を届けることが義務付けられ、電力会社を変える際の手数料も無料化されました。小売事業者は、どのようにして作られた電気なのか(電源構成)をグラフで示し、C02や放射性物質の排出量なども開示しなければなりません。送配電網の利用も国がルールを定め、利用料を引き下げさせました。
この改革によって、電力の購入先を変える消費者が増え始めました。小売事業者も増え、卸取引市場が活発になっていきました。小売り・卸の好循環がようやく生まれたのです。
固定価格買い取り制度のもとで再生可能エネルギー(再エネ)も爆発的に伸びました。昨年(2015年)は再エネが総発電量の30%を占めるまでになりました。瞬間的には需要の83%を再エネがまかなっています。再エネは主要な電源となり、石炭は先細りです。原発も22年末までにすべて廃炉にすることが決まっています。
採算とれず
燃料代がかからない再エネの流入で、卸市場での電力の取引価格も下がり続けています。石炭などの火力発電は、出番が少なくなったうえに電力を高く売ることもできず、採算がとれなくなりました。石炭発電所を造ろうという事業者はドイツにはいません。
それが何をもたらすか—。ドイツの二大電力会社の一つ、エーオン社は株価が大きく下落し、赤字企業に転落しました。一昨年(2014年)末、エーオン社は原発と石炭・ガス発電を不良部門として切り離し、再エネと小売り、送配電を事業の柱にする方針を発表しました。原発にこだわり、時代の流れから取り残された大手企業は、いま存亡の危機に立たされています。
根本の変革ヘ
他方、地方は活気づいています。自治体は「エネルギー自治」を掲げ、競い合うように再エネ100%化の実現を目指しています。自ら供給事業に乗り出す自治体も相次いでいます。
自由化と再エネの進展は、ドイツのエネルギー事情を根底から変えようとしています。
(「しんぶん赤旗」2016年2月29日より転載)