東京電力福島第1原発事故の汚染水対策として、建屋周囲の地下に″氷の壁″をつくり、地下水を遮断する「凍土壁」(陸側遮水壁)の設置工事が2月9日、終了しました。東電が同日、発表しました。しかし、運用後の影響について、いまだ評価ができていないため、原子力規制委員会から認可されず、運用のめどは立っていません。
(唐沢俊治)
凍土壁は、1〜4号機の建屋の周囲約1・5キロを1メートル間隔で掘った穴に、約1500本の凍結管を設置。地盤を凍らせて壁をつくり、建屋周辺への地下水流入を抑える計画です。国費約345億円を投入。2014年に着工し、15年から一部凍結管の試験凍結を始めています。
原発事故処理では、増え続ける汚染水が問題の一つです。現在、1日当たり150トンの地下水が建屋に流入し、「地下水ドレン」(井戸)などからくみ上げた高濃度の汚染地下水を同350トン建屋に移送。毎日計500トンの汚染水が生じています。
凍土壁稼働の効果について東電は、建屋への地下水流入量を同50トン、建屋への移送量を同100トン、合計で同150トンに抑制できると想定しています。
しかし、懸念されるのが、建屋内から周辺の土壌に汚染水が流出することです。それを防ぐため、建屋内の汚染水位を周辺の地下水位より低くコントロールしなければなりません。本当に管理できるのか、疑問の声が上がっています。
汚染水漏えいのリスクを踏まえ、凍土壁のうち山側を運用せず、海側のみを運用する新たな案も議論され始めています。
凍結完了後、運用を停止しても″氷の壁″が融解するまで2カ月程度かかります。予期しない地下水位の変動が生じた場合、短期間に復帰できません。この課題について、東電から、規制委に対し十分な説明がされていません。
地下水位の変動を予測するため、地質、地層、地下水流動のデータを用いた検証をめぐっても、1月27日の検討会議では原子力規制委が「説明が不十分」とするなど、東電との認識の違いが浮き彫りになっています。
計画当初から、氷の壁ができるのかという計画の実現性への疑問もあるほか、日本陸水学会は「より大きな事故を引き起こす可能性」を指摘しています。不安要素を抱えているだけに、慎重な対応が求められます。
(「しんぶん赤旗」2016年2月10日より転載)