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歴史的分岐点における科学者の社会的責任・・日本科学者会議 創立50周年を迎えて/米田 貢

よねだ・みつぐ 1952年生まれ。日本科学者会議事務局長、中央大学経済学部教授
よねだ・みつぐ 1952年生まれ。日本科学者会議事務局長、中央大学経済学部教授

 日本科学者会議(JSA)は、12月4日に創立50周年を迎えた。47都道府県に支部を持ち、『日本の科学者』という総合学術誌を毎月発行している。自然科学ばかりではなく社会科学・人文系の学問分野の研究者や弁護士・医者・ジャーナリスト、教員などの高度専門職業人も含め四千数百名の会員を擁している。

 日本の科学者は、アジア太平洋戦争の時代に苛烈な治安維持法をはじめとする弾圧体制のもと学問の自由を奪われた。自然科学者・技術者の多くが軍事技術・軍需産業の振興のために動員され、多くの文系の科学者、研究者が真理を探求しその研究成果を広く社会に問うことを断念せざるをえないという辛苦(しんく)の歴史を経験している。

 敗戦直後の1946年に進歩的科学者によって専門分野別に組織された民主主義科学者協会(民科)は、侵略戦争に対する科学者の社会的責任を問うことから出発した。JSAは、この民科の精神を継承しつつ科学の正しい発展を求める科学者たちが、それまでの科学者団体が有していた専門分野や地域による組織化の限界を突破して大同団結した全国組織としての総合的な学術団体である。50年の歩みについては『日本の科学者』12月号を参照されたい。

すべての原発 廃棄へ総力を

 いまJSAは、日本のすべての原発を廃棄することは、現在を生きる科学者が果たすべき第一義的な社会的責任であるという立場から、会員、支部、全国が総力を挙げて原発廃止の国民的運動に合流している。JSAはその会則の冒頭で「科学を人類に役立て正しく発展させていくことは、私たち科学に携わる者の共通の任務です」とうたっている。

 私たちは、原発の安全神話とたたかってきた歴史を誇りに思うと同時に、福島原発事故の発生を許し福島県民を中心とする多くの人々に多大な犠牲を強いている現状に対して一定の社会的責任を自覚している。

 だが、致命的欠陥を持つがゆえに人類と共存できない原発を開発した科学者・技術者の責任を、それに直接携わってきた人々にのみ押しつけることはできない。新たに獲得された科学的認識をどのような形で現実世界で物質的に具現するのか、すなわちいかなる技術として実用化するのかは、安全性・経済合理性・利便性、環境制約性などの多面的な学問的視点から総合的に評価されたうえで、社会がその採用の可否を最終的に決定すべき事柄である。JSAとして、福島原発事故の発生以前に、なぜ原発の総合的な評価に基づいて原発の廃棄を国民に対して提起できなかったのか、それが大きな反省点である。

戦争か平和か問われるいま

 2015年は戦後日本社会の歴史的分岐点となった。「強い国」とは「戦争をする国」であると時代錯誤的に考える安倍首相は、現行憲法の下では集団的自衛権は行使できないとする政府の従来の憲法解釈を百八十度転換させ、憲法違反の安保法制を強権的に制定した。自衛隊員が戦場に送りこまれ、日本の青年が外国で殺し、殺される事態が予想される。

 国が道を誤れば、国民も不幸に陥らざるをえない。原発の再稼働問題に加えて、戦争か平和か、立憲主義か戦前を彷彿(ほうふつ)とさせるファシズム、強権政治の世界かという究極の歴史的選択をいま我々は問われている。立憲主義は人類が英知を結集し、多くの犠牲を伴いながら近現代社会において実現した最良の政治的文化である。それを市民と連帯して守り発展させることは、あらゆる科学者にとって最優先の課題であることを肝に銘じて、JSAとしての新たな半世紀に桃みたい。

(「しんぶん赤旗」2015年12月21日より転載)