多くの命を奪った大津波、大量の放射能を拡散した東京電力福島第1原発事故。未曽有の被害をもたらした東日本大震災から3月11日で3年。1000日以上を経ながらも、いまだに厳しい被災地の現状と課題を検証します。
(東日本大震災取材班)
「死ぬまでここ(仮設住宅)にいるしかない」・・。多くの被災者にとって津波で失った住宅の再建は厳しく、なかなか進んでいません。狭くて不自由な仮設住宅から一日も早く出たいという声がある一方、災害復興公営住宅の家賃負担が重い、今のコミュニティーを失いたくないなどの理由で、公営住宅への入居にも二の足を踏むなど、被災者が仮設から出られない状況が広がっています。
月6万円しか
「公営には申し込んだけど、いっそのことここにいたいという気持ちです」。こう話すのは、津波で自宅を失い、宮城県石巻市の仮設大橋団地で暮らす亀山和男さん(85)、益子さん(81)夫妻です。少ない年金生活では、自宅再建は困難です。
2人の年金から水光熱費などを除くと、月に使えるお金は6万円前後。医療費も多い時には数万円かかり、公営住宅に入るとしても、家賃を払うと暮らしていけません。
申し込んだ公営住宅の周辺はまだ更地で、買い物も通院も今より不便に。益子さんは「お茶っこ飲んだり、食べ物を分け合ったりする友達とも離れたくない」と、不安をこぼします。
所得の低い被災者の公営住宅の家賃は5年間軽減されます。しかし、最低でも月5千~6千円で、共益費2千円や駐車場代3千円といった追加負担もあり、どんなに収入の低い人でも毎月の負担が1万円近くに上ります。特に、少ない年金で暮らすお年寄りには重い負担です。
同団地の住民らが2012年6月に結成した「公営住宅を大橋地区に望む会」が毎週開いている定例会。1日に参加した13人のうち6人が「仮設を出られない」といいます。「公営の家賃が高い」「仮設の仲間とばらばらになりたくない」など、理由はさまざまです。
条件狭められ
日本共産党石巻市委員会が市内の仮設住宅に住む被災者を対象に行ったアンケートには、公営住宅の家賃負担への不安の声が多数寄せられました。
「公営住宅の家賃が高い。被災して収入は減ってしまった」「仕事がなくなり、再就職先も見つからない。公営の家賃が払えるかどうか心配でならない」
宮城県は12年、条例を改悪して公営住宅への入居条件に「県税等を滞納していないこと」を加えました。日本共産党の横田有史県議の質問に県は、相談して滞納分の分納を約束するなどすれば入居可能と答えました。しかし、大半の自治体の入居案内には「税滞納者でないこと」とだけ書かれており、生活に困窮する被災者を門前払いしかねません。
遠藤いく子党県議は、「国の支援が乏しいために自宅を失った方が再建できないということが根本にあり、公営住宅まで要件を挟められて、どこへ行けばいいのかということになります。再建を望む人ができる支援こそ必要です」と語ります。
足りぬ公営 いたむ仮設・・床ギシギシ、部屋ジメジメ
被災者が仮設住宅を出られない背景に、自宅再建の困難さと、災害復興公営住
宅の不足があります。
宮城県石巻市では、防災集団移転事業による新しい土地の1坪当たり価格が、津波で被災し、市が買い取る土地と比べて2~3倍にも。移転事業の募集に対し、空きが出て埋まらない状況です。
復興公営住宅の不足も明らかです。同市では、現在3250戸の建設を進めていますが、市の意向調査で希望数は4160戸あまりに。無回答が4干世帯に上り、市も入居希望者数をつかみ切れていません。
仙台市では、3200戸の計画戸数に対し、希望数は3900世帯に上っています。しかも、市外で被災して同市に避難している被災者は算定根拠に加えていません。
散らばる被災者
住民の約4割が市外から避難している、あすと長町仮設住宅(太白区)の自治会長、飯塚正広さんも岩沼市からの避難者。「国や県は、市町村をまたいで避難している被災者を把握し、調整すべきではないでしょうか」と話します。
日本共産党仙台市議団は、市に対して市外被災者を公営住宅整備計画の算定根拠に加えるべきだと強く求めています。
震災から3年となり、狭く不自由な仮設での生活で、被災者の疲労が深まっています。
「早く戻りたい」
岩手県大船渡市の仮設住宅で暮らす女性(88)は、「仮設は狭くて階段の上り下りもなく、体を動かさなくなったので足腰が弱りました。デイサービスに通って体操をしています」と話します。
同県山田町の仮設住宅で暮らす女性(66)は、「仮設はアパートのようなものなので、お隣さんとの関係や物音などでストレスがたまります。疲れました」とこぼします。
「床がたわんで、ギシギシいうようになった」「戸のたてつけがわるくなった」などと、仮設住宅のいたみや老朽化も進んでいます。
同県大槌町の吉里吉里(きりきり)仮設団地で暮らす港川律男さん(77)、信子さん(71)夫妻。11年5月に入居して2年半になり、当初より室内の湿気がひどくなってきました。
2人が寝起きする部屋は床がじっとりとぬれ、布団一組をカビでだめにしてしまいました。町に相談し、床下に換気孔をつくる工事が行われて少し改善したものの、乾燥する冬場でも一日中除湿機をつけています。
信子さんは、「仮設の暮らしに慣れてはきましたが、みなさん我慢しているのではないでしょうか。高台移転は早くても2年後といわれています。隣に住む孫たちが狭いところでかわいそうなので、早く自宅を再建して戻りたい」と話しています。 (つづく)