日本共産党嶺南地区委員会 > 中池見湿地 > LNG基地内に活断層がなければ「大丈夫」かと言うとそうでない。・・・軟弱地盤と地質災害について、元通産省工業技術院地質研究所主任研究員・坂巻幸雄氏が講演。

LNG基地内に活断層がなければ「大丈夫」かと言うとそうでない。・・・軟弱地盤と地質災害について、元通産省工業技術院地質研究所主任研究員・坂巻幸雄氏が講演。

大阪ガスによるLNG(液化天然ガス)基地の建設計画に反対し、環境保全のための学術調査などの活動をしている「生物多様性ネットワーク」は十二月十四日、敦賀市中央公民館で「中池見合同学術調査報告会」と「軟弱地盤と地質災害」と題する講演会を開催しました。

軟弱地盤と地質災害について講演する元通産省工業技術院地質研究所主任研究員・坂巻幸雄氏(97年12月17日)
軟弱地盤と地質災害について講演する元通産省工業技術院地質研究所主任研究員・坂巻幸雄氏(97年12月17日)

「軟弱地盤と地質災害」について講演を行った元通産省工業技術院地質研究所主任研究員の坂巻幸雄氏は「私は地質屋としてなぜ中池見がガス基地の候補地になりうるのか疑問をもった」とのべ、その理由を�活断層がなくても軟弱地盤では、大地震がきたときには被害は甚大となる�中池見のような袋状埋績谷(軟弱地盤)のでき方が、ふつうの盆地にただ堆積したのではなく、この地域一帯の断層活動と関係がある�市民の安全をまもる上で何が重要か、安全性の評価、潜在的な危険を考慮した万全な防災体制などをきちんと論議して、結論を出すべきだ。�しかし、ガス基地を誘致するに当たって、慎重さを欠いたために計画の安全性が乏しくなったと指摘し、「中池見で言えば、軟弱地盤にどのようして基地を建設するのではなく、もっと他に安全な場所が求められないか考えるのが筋だと思う」とのべ、同計画は白紙に戻し、何が大切か徹底した討論が必要だと呼びかけました。

以下、坂巻氏の講演内容を紹介します。

◆活断層がなければ「大丈夫」なのかと言うとそうではない

中池見の南北のリニアメントが活断層であるのかどうかについて、大阪ガスはボーリングや弾性波探査などで調べたが、活断層ではないと言い、通産省も敦賀断層の北方にのびている活断層は、断層そのものが確認できなかったと言っています。
これに対して坂巻氏は、「活断層がなければ『大丈夫』なのかと言うとそうではない。大きな地震の被害は活断層の真上だけではなく、大きな地震動は活断層の真上以外の人工構造物を破壊する力をもっている。したがって、活断層がないから安全だとはとても言えない。特に、軟弱地盤では地震の被害は拡大される」とのべました。
また、「活断層と分かっていなかったところでも現に破壊級の地震は起きている。したがって、はっきり活断層と分かっていれば問題だが、そうでなくても相応の注意が必要である」と指摘し、「東海地震説」を提唱した石橋教授の論文から、「活断層の有無は問題ではない。一九二七年の北丹後地震(M7・3死者二千九百二十五人)、一九四三年の鳥取地震(M7・2死者千八十三人)などは活断層が認識できないところで発生した。活断層ばかりに気を取られていると足をすくわれる」とのべ活断層と分かっていなかったところでも現に破壊級の地震は起きている例を紹介しました。
続けて、「日本海側は地殻のひずみがたまる速度が遅いから、何万年に一度の大地震が発生する。過去に地震の記録がないところが逆に怖いんです」という同教授の言葉を紹介し、地震の空白域(敦賀断層、柳ヵ瀬断層を含む嶺南一帯)の危険性を指摘しました。

◆大地震では軟弱地盤(中池見)の倒壊率は100%近いことが予想される

次に坂巻氏は、神戸の大震災でも家屋の倒壊が帯状につながっており、調べてみるとみんな地下水レベルがマイナス3~5メートルという浅いところで被害が大きかったことをのべ。それについて詳しく調べた岩崎先生の論文を紹介し、「神戸地震が起きた場所の特に軟弱地盤のところで、推定される活断層の位置から、どれぐらいの距離まで家が倒壊しているか綿密に調べると、断層直上から六キロメートルまでの家屋の倒壊率はほぼ100%で、それから十キロまで徐々に減少し、十キロを越えると倒壊率10%で安定する。断層直上から六キロメートルまでの家屋の倒壊率の傾向は岩盤上(六甲山)で10%、硬質地盤(六甲梺の丘)では43%ぐらい、液状化地盤(ポートアイランド)で50%ぐらいであった」とのべ地盤の堅さによって構造物の地震に対する安定性が違うことを明らかにしました。

また、過去の事例について、関東大震災と福井地震を例にとり、「関東大震災のとき大磯・平塚の北部(現在の秦野市、伊勢原市付近の軟弱地盤)では家屋の倒壊率が80%を越えている。相模湾から入り込んだ谷を埋め立てた軟弱地盤の地域で建物がほとんど壊されている。一九四八年の福井地震でも、断層から八キロメートルまでの軟弱地盤では家屋はだいたい100%近い倒壊率である」とのべ、軟弱地盤は注意が必要であることを強調しました。

これらのことを敦賀市にあてはめると「明らかに活断層と認められている敦賀、野坂、甲楽城断層の両わき八キロメートルをとると敦賀市、中池見はすっぽり入ってしまう。特に余座池見、中池見に代表される軟弱地盤の倒壊率は100%近いことが予想される。かりに(中池見や敦賀断層北部に)活断層がなくても分かっている活断層が動いただけで大きな被害が予想される」とのべ、重ねて軟弱地盤は危険で、活断層がないから安全だとは言えないと明言しました。

◆中池見に80メートルの大きな崖を想定しないとなぜ軟弱地盤ができたか説明が付かない

nakai-tansa97-12-17.gif 軟弱地盤(袋状埋績谷)はどうしてできたかに話をすすめた坂巻氏は、「大阪ガスの調査書によると中池見の基盤(岩盤の状態)が弾性波探査など物理探査の方法で描かれている。しかし、これはだいたいの傾向を見るにはよいが、あるフイルターを通して仮定したもので生身の写真を見ているわけではない。ボーリング調査も数が少なく不十分だ」とのべ、大阪ガスが物理探査で示したなめらかな曲線状の岩盤(A図)の信頼性に疑問があることを指摘しました。

中池見に「推定断層」を引いた2つの根拠

nakai-jyuudan97-12-17.gif そこで、中池見の基盤(岩盤の状態)を知る方法として同氏は、「地形図から河川の縦断面図(B図)を作成し、それに大阪ガスのボーリングのデータから、その地点の地表面の標高と湿地が何メートルでどういう地質が出てきたかが分かる。このことから中池見の元の山肌がどこにあったのかを知ることができる。(B図の)2番の位置は、マイナス44・84メートルのところに泥炭層がたまる前の表面(岩盤)がある。(B図の)1番の位置では、+36・58メートルのところに前の表面がある。このことから、1番と2番の距離は150メートルでその間に80メートルの標高差(C図)がある。大阪ガスのデータではこの位置の岩盤(前の表面)はなめらかな曲線(A図)になっている。しかし、80メートルの標高差をなめらかな曲線でむすぶのは非常にむつかしいと思う。したがって、ここに大きな崖を想定しないと説明が付かない。(B、C図の)のように「推定断層」を引いてみたが、これが指摘されるリニアメントときっちり合うわけです」とのべ、「推定断層」の第一の根拠を示しました。

nakai-suiteidan97-12-17.gif また、これは勝手に引いたものではないと指摘した坂巻氏は、「大阪ガスのボーリングの詳しいデータである『ボーリング柱状図』を見ると『明らかに流水による堆積物』と言う記載ある。これは昔、断面の上から沢が流れていた。ここの堆積構造を調べれば分かるが、少なくともマイナス40メートルのところまでは普通の谷川だったと推定される。また、同柱状図ではマイナス25メートルで『粘土分やや多い』さらにその上では『分解した腐食質主体の粘土』『有機質粘土』などと言う記載ある。これは、谷川でいきおい流れていた粘土分が、何らかにより停滞し、溜まったことを意味する。その溜まった粘土の上に植物が生えはじめたと推定できる。谷川が山崩れなどで流れなくなったと言うこともあるが、この泥炭層は40~50メートルもあることから、停滞したのが一過性のものでないことは明らかである」とのべました。

それでは軟弱地盤(中池見)がどうしてできたのかについて、「地形図とか河川の縦断面図などを合わせて考える限り、谷の出口が地形変動(地震)によりふさがれて、そこに水が溜まるようになったと考えざるを得ない」と強調し「推定断層」を引いた第二の根拠を示しました。

◆「活断層はない」と言うのなら、大阪ガスは断層以外で、なぜ軟弱地盤ができたのか説明する必要がある

nakai-dankatudou97-12-17.gif 中池見の袋状埋績谷(軟弱地盤)のでき方が、この地域一帯の地形変動(地震)など断層活動と関係がある。谷川が断層で切られて崖ができたことを解明した坂巻氏は、「谷川が断層で切られた場合、切られ方で二つのタイプになる。六甲山南側のように谷の下流側が落ちた場合、図(D図の�)のように流れてきた水がくびれにより滝になり浸食が起こり石などが落ちてきて図のようになる。では逆に中池見で指摘したように、谷の下流が上がって上流側が落ちた場合、図(D図の�)のように流れてきた水が崖より停滞し、粘土など細かいものが溜まって、その堆積物が溜まって下の谷とつながるとまた水が流れ出す。くびれができるのは断層だけではなくて、図(D図の�)のように柔らかい岩(軟岩)の中に硬い岩(チャート)が出ていると、浸食に対して抵抗力があるので、くびれができる場合があるが中池見の崖はこういうくびれとはまったく違う」と力説しました。

大阪ガスの環境影響評価書では「活断層の存在は認められません」と言っていましたが、坂巻氏が指摘したことから中池見に断層ないしリニアメント(直線型地形)の存在を推定せざるを得ません。

推定を確かなものにする方法として同氏は、「図(B図)の1番と2番の間に(垂直、水平に)もっと綿密なボーリングを行うと、実体がはっきりしてくると思う。『活断層はない』と言うのなら、断層以外で、なぜ軟弱地盤ができたのか説明する必要がある」と大阪ガスの安易な報告を強く批判しました。

◆安全度の低い土地になぜLNGのような危険物を大量に集めるのか疑問

最後に、危険物にふさわしい立地条件をえらぶことと、万全な防災体制をつくる必要があると指摘した坂巻氏は、「これまで指摘したような安全度の低い土地になぜLNGのような危険物を大量に集めるのか疑問である。原発に加え周辺から援助が受けにくい地形(峠に囲まれて避難、援助のための道路が極めて少ない)など潜在的に危険がある地域にもう一つ危険なLNG基地をつくって、緊急事態が発生したときに対応できるのか。市民の安全をまもる上で、潜在的に危険を考慮した万全な防災体制をつくる必要がある。安全度を上げるために、自治体としてこれらを行おうとすると、LNG基地の税収以上の費用がかかる」と強調しました。

これまでの開発一辺倒の制服主義はもう限界、自然との賢明な調和を
21世紀に向けて、自然を征服していくのか、折り合いをつけるのかと問題提起した坂巻氏は、「自然を征服したつもりが失敗した例として阪神大震災では高速道路が倒壊し、地下鉄はつぶれた。関西新空港でもまた変形が起こっている。また、折り合いをつけた例として上越新幹線の中山トンネルで勇水のため工事が難航し、しかたなく迂回した。これまでの開発一辺倒の制服主義はもう限界で、これからはそういう時代ではない。中池見で言えば、軟弱地盤にどのようして基地を建設するのではなく、もっと他に安全な場所が求められないか考えるのが筋だと思う」とのべ自然との賢明な調和が必要だとの考えを示しました。

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