東日本大震災での東京電力福島第1原発事故の復旧・廃炉作業で燃料輸送業務についていた作業員2人が、一方的賃下げと解雇、危険手当不払いは不当として、東電、元請けと下請けにこれらの権利回復を求めた訴訟(仙台地裁)で和解が成立しました。賃下げ分と危険手当相当額などとして1人当たり350万円を取り戻しました。
(山本眞直)
「大震災からの復興、原発事故の収束・廃炉のためと高線量のなかでもがんばってきた。しかし東電、元請けなどの会社は、一方的な賃金引き下げを繰り返し、抗議したら解雇してきた。絶対に許せないと思いながらも先の見えないときもあったが、皆さんの支援で勝利することができました」
労組に加入し
10月2日の和解をうけ、仙台市内で11月16日に開かれた報告集会で、家族や支援者をまえに喜びをかみ締めた2人の原告。原発事故直後の2011年7月から、燃料運搬を前線拠点のJヴィレッジ(福島県広野町)から福島第1原発にしてきた作業員の丹代徳男さん(51)と大湯一さん(50)です。
東電から元請けとして運搬業務を受注した大成建設の2次下請け会社(宮城県内)に所属。危険物取り扱い資格をもつ2人は日当2万5000円で契約しました。ところが勤務してまもなく一方的に賃下げの通告。抗議すると12年10月、「解雇」を通告されました。
2人は全労連・全国一般・宮城一般労組に加入し、団体交渉を続けましたが、会社側は解雇撤回、引き下げ分の支払いを拒否。13年7月、「災害復旧という言葉を口にしながら、作業員に渡すべき危険手当をピンハネする会社、それを黙認する東電などの責任を問いたい」として東電、大成建設と下請け会社を相手に、請求訴訟を仙台地方裁判所に起こしました。
裁判で原告、弁護団は国会やいわき市議会での日本共産党の論戦、これを報じた「しんぶん赤旗」記事を証拠として提出。「原発作業での『特殊勤務手当(危険手当)は労働者に直接支給されるべきもの』」など東京電力の証言をつきつけました。
弁護団は、東電、元請けの大成建設、下請けの3社に対し、弁護士法に基づき「照会申出書」を提出しました。
労働者に勇気
東電ら3社は「危険手当の存在を認め、契約金に含まれる」と回答してきました。″ブラックボックス″ともいうべき危険手当の存在自体を企業側が明らかにしたことは「危険な原発関連作業に従事する労働者にとって勇気を与えるものになった」(宮城県労連)。
裁判所は和解の内容として、元請けが下請けとの契約単価を減少させても労働契約による賃金を勝手に引き下げることは許されないとし、原告の訴えを全面的に認めました。
高齢の義母、病弱な娘を抱えて丹代さんのたたかいを支えた妻、美佳子さん(49)は、「正直、心が折れそうになったこともあります。でも一番つらかったのは夫だと思う。皆さんの支援で勝つことができました」と。
丹代さん、大湯さんの訴えを最初に聞き、宮城県労連とも連携、たたかいを支えてきたいわき市の渡辺博之日本共産党市議もかけつけ、「2人の危険物取扱者としての判断、人間としての尊厳をかけた勇気が裁判所を動かした」と満面の笑みで2人と握手を交わしました。
(「しんぶん赤旗」2015年11月18日より転載)