四国電力伊方原発の事故を想定した原子力総合防災訓練(11月8〜9日)が行われました。寝たきりや介護が必要などの要支援者を想定した避難訓練も初めて実施されましたが、課題は残されたままです。
(砂川祐也、三木利博)
訓練は、伊方原発より西側の佐田岬半島(原発5キロ圏内と同じ避難基準)で在宅の要支援者と福祉施設の入所者を対象に避難訓練が行われました。町内の要支援者は約400人。訓練では健康上のリスクから参加した人数はわずかでした。
在宅の人たちは、移動で体力消耗心配
在宅の要支援者避難では、代役の伊方町職員が各地区から1人ずつ、計5人が一時集詰所の瀬戸総合体育館に集合。大型バスに乗り換え町外の施設へ向けておよそ1時間半、伊予灘に面した国道沿いに約73キロの道のりを走りました。途中の避難に使う国道は、伊方原発の近く(約1キロ南側)を通ります。
事前に決めている受け入れ先の松前(まさき)町の福祉施設で避難者は血圧測定をして待機する訓練でした。応急処置を担当した同町健康課の永田純子さん(34)は「訓練は代役の職員だったのでスムーズにいきましたが、実際の場合は、長時間移動して来られるため病気の状態への配慮が必要です。少ない人数で対応することにもなり、応急処置の順番待ちだけでも体力を消耗することになります」と話しました。
要援助者役の伊方町福祉課の坂本恒(ひさし)さん(39)は「集会所に集まるにも車では立ち入れず、要支援者が2分ほど歩かなければならない場所がある」と懸念をもらします。別の職員は「災害時には、当然、介助が必要。訓練のようにスムーズにいくことはない。今回の体験をどう生かしていくかが課題」だと話します。
福祉施設では、容体急変の可能性も
福祉施設の要支援者を避難させる訓練もありました。
半島の中ほど、太平洋側に面した標高10メートルの場所にある福祉施設では、施設の67歳の男性職員1人を入所者役にして車いすに乗せ、約3分かけて車内に固定。原発から30キロ圏外の同じグループの介護老人福祉施設へ避難させました。
訓練では事前に受け入れ先を決めた上で、空きベツドを確認しましたが、実際の入所者は74人で、施設の計画では避難先を5施設から選ぶといいます。しかし、施設の職員は「入所者で何時間も車いすに座って移動する訓練に耐えられる人は少ない。(容体が)急変する可能性もあります」と話し、避難以前の問題を指摘します。そして、福島原発事故で入院患者や施設の入所者が避難途中で亡くなったことも語り、「緊急時に職員を全員参集させる計画ですが、土砂崩れなどで集まれない不確定要素もあります。避難は難しく、ここで動かずに救助を待った方が賢明かもしれません」と話します。
伊方町によると、伊方原発以西の放射線防護施設は四つ(うち100人収容する1施設は来年春の完成)。収容人数は合わせて468人で、1週間分の食糧や燃料の備蓄の用意があるといいます。ただ、施設への収容は、健康リスクの高い人を想定し、一般の住民は津波被害の心配のないコンクリート施設に退避するとしています。
(「しんぶん赤旗」2015年11月11日より転載)