「生業(なりわい)を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟(福島地裁、金澤秀樹裁判長)は第14回口頭弁論が終わりました。原告側が求めた専門家5人(別項)に対する主尋問、反対尋問が終了。次回からは原告本人に対する尋問が始まります。弁護団事務局長の馬奈木厳太郎(まなぎ・いずたろう)弁護士は「マラソンで言えば、折り返し地点を過ぎていよいよラストスパートをかける地点に差し掛かった」といいます。専門家の証言で何が明らかになったのか、馬奈木弁護士に聞きました。
(菅野尚夫)
日本のトップクラスの専門家が全国に先駆けて証言したことは大きな意義がありました。
立証の趣旨は、一つは国や東電に福島第1原発事故について過失があり法的責任を問われるかどうか、もう一つは、今回の事故による被害の特徴と実態について証言を得ることでした。
この二つは表裏の関係にあるのですが、専門家の証言は裁判の帰すうにとっても、大きな位置づけをもつものです。
放射能飛散でも
沢野伸浩(さわの・のぶひろ)氏は、航空機モニタリング測定結果に基づき放射能がどう飛散し汚染しているかを目に見えるように解明しました。
舘野淳(たての・じゅん)氏は、安全を軽視した原発推進の歴史、冷却システムの脆弱(ぜいじゃく)性について論じ、今回の事故発生の原因、事故回避の可能性にまで踏み込んで、対策の怠りを証言しました。
都司嘉宣(つじ・よしのぶ)氏は、自身も携わった、2002年に文部科学省・地震調査研究推進本部の長期評価部会が発表した「長期評価」について述べ、明治三陸地震と同様の津波が三陸沖から房総沖にかけて発生する可能性がある、つまり福島県沖でも大きな津波が起きる可能性を警告していた「長期評価」の内容が無視し得ない知見であって、今回の事故を予見できたのに、国も東電もこれを無視して、必要な対策を取らなかったと証言しました。
被害内容を調査
被害論については、成元哲(ソン・ウォンチョル)氏が母子を中心としたアンケート調査をもとに証言。被害の現れ方は多様で、放射線量の高いか低いかだけで表せないことを証言しました。
中谷内一也(なかやち・かずや)氏は、心理学の立場か、「健康に影響があるかないか」という住民の不安は事故から4年が経過しても無くならないこと、被ばくをめぐる被害者の不安には不合理性と相当性があることを証言しました。
(つづく)
5人の専門家(肩書は証言当時)と証言内容は次の通り。
沢野伸浩・金沢星稜大学女子短大教授 放射性物質による汚染把握
成元哲・中京大学教授 東電福島第1原発事故による被害の社会学的把握
舘野淳・元中央大学教授 原子力の規制について
都司嘉宣・元東京大学地究所准教授 地震・津波の知見
中谷内一也・同志社大学心理学部教授 住民の不安の合理性
生業訴訟とは
2013年3月に800人の原告が福島地裁に提訴。国と東電に原状回復と空間線量が0・04マイクロシーベルト以下になるまで住民1人当たり毎月5万円の損害賠償を求めた裁判。10月現在、福島県内すべての自治体と近隣の住民4000人を超える原告数になっています。
(「しんぶん赤旗」2015年10月25日より転載)