安倍政権は原発推進を盛り込んだ「エネルギー基本計画」案の閣議決定を今月中にも狙っています。同案はなぜ撤回以外ないのか、改めて検証します。
ベースロード電源・・最悪の不安定電源
政府案は、原発を「重要なベースロード電源」と位置付けました。しかし、去年(2013年)9月に関西電力の大飯原発が定期点検のため停止して以降、全国で稼働している原発はありません。1ワットたりとも発電してない原発をどうして、「重要」電源と位置付けることができるのでしょうか。「存在しない」ものを「存在する」というのは、国民だましの手法です。
「ベースロード電源」とは、発電コストが低く、昼夜を問わず安定的に稼働できる電源のことを指しています。しかし、福島第1原発事故は、原発と人類社会は共存などできないという事実を私たちにつきつけました。
原発は、いったん事故があれば巨額の費用がかかることも明らかになっており、「究極の高コスト」電源です。
福島原発事故以前にも、原発はたびたび停止。実際、1975年以降の原発の設備利用率は平均で7割程度にすぎません。
2003年には前年のトラブル隠しが引き金となり、東電の全原発17基が停止。07年の新潟県中越沖地震では、東電の柏崎刈羽原発が長期にわたって運転不能になりました。いわば「最悪の不安定」電源なのです。
原発は、人道的にも経済的にもエネルギー源としても「重要な」電源とするわけにはいきません。
「世界最高の基準」というが・・国民の安全置き去り
政府案は、原子力規制委員会が定めた原発の規制基準について「世界で最も厳しい水準」と繰り返し、「再稼働を進める」テコにしようとしています。
しかし、東京電力福島第1原発事故はいまだに収束しておらず、事故の原因究明も終わっていません。そんな段階で作られた規制基準が、事故の教訓を踏まえたものとはなり得ないのは明らかです。
しかも、既設原発を廃炉にさせないため、これまでの基準より後退した内容さ
え含まれます。たとえば、原発の設置許可の際、一定の事故想定に基づいた敷地境界の被ばく線量が、基準以下になるか確認していました。しかし、福島原発事故のような過酷事故を想定すると、基準以下に抑えることは「現実的でない」として、求めなくなったのです。
福島原発事故では、格納容器が壊れて、大量の放射性物質が環境へ放出されましたが、格納容器に対する新たな機能も求めていません。汚染水の対策も問題にしていません。
さらに防災計画が規制対象となっていません。米国では、1979年のスリーマイル島原発事故の教訓から、防災計画は規制要求となっています。
規制委の田中俊一委員長自身、かつては「防災計画まで(規制要求に)入っていないと本当の安全確保の国際的な標準になりません」と認めていました。
防災計画は自治体任せで、実効性の評価もしない規制基準は、国民の安全を置き去りにするものです。
「原発ゼロ」の世論に敵対
原発について「将来は廃止」「今すぐ廃止」を合わせると83%になる(「毎日」世論調査)など、国民の圧倒的多数が「原発ゼロ」を求めています。政府案は、この国民世論に敵対・逆行しています。
同案の策定にあたって行った意見公募には1万8663件の意見が寄せられましたが、原発への賛否の割合は示しませんでした。前政権の意見公募では「原発ロ」の意見が約9割に反んだことが公表されました。
しかも、今回の意見公募では「原発ゼロをめざすべきだ」などの意見に、経済産業省がいちいち反論をつける異様さです。
政府案では、原発再稼働に向け「国も前面に立ち、立地自治体等関係者の理解と協力を得るよう、取り組む」とか、国民の不安・不信に対し「原子力に関する丁寧な広聴・広報を進める」とも明記。破綻済みの核燃料サイクルの推進まで盛り込むなど、国民の世論を無視した原発推進宣言となっています。
「国富が流出」と国民脅す
政府案は、原発再稼働しなければ、輸入燃料費が増えて、「国富が流出」すると国民を脅しています。
2013年の貿易収支は、約11兆5000億円の赤字でした。火力発電用の液化天然ガス(LNG)の輸入が増えたことが原因などと報道されました。輸入額の変動は価格要因と数量要因に分かれます。価格要因には、燃料費の高騰や円安による為替の影響があります。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査室長計算によると、11~13年の平均で鉱物性燃料の輸入量の拡大が貿易収支を悪化させたのは、赤学帽拡大の1割に満たない1・5兆円でした。斎藤氏は、同研究所ホームページ掲載のリポートで「原子力発電所が再稼働したとしても、貿易収支が大きく改善することは難しい」と指摘しています。
輸入に頼ってきた戦後の自民党のエネルギー政策が、アベノミクスの「円安」を引き金に輸入額を拡大し、「国富」を流出させているというのが実態です。
「国富流出」を防ぐためには、再生可能エネルギーを抜本的に普及しエネルギー自給率を高めることです。