菅義偉官房長官は、九州電力が川内原発2号機を再稼働させた10月15日、「原子力規制委員会によって世界で最も厳しいといわれる水準の新規制基準に適合すると認められたものについては、その判断を尊重して再稼働していく」と述べ、再稼働推進の安倍政権の方針を繰り返しました。
しかし、新規制基準で求めている対策の中身は、既存原発が不適格にならないよう、格納容器の設計基準を見直すことをしていません。住民の安全にとって肝心な避難計画も審査の対象外です。住民避難の実効性は検証されていません。規制委の田中俊一委員長は就任当初、規制の枠組みについて「防災計画まで入っていないと本当の安全確保の国際的な標準になりません」と認めていました。米国原子力規制委員会(NRC)では、原子力緊急避難計画を規制の対象にしています。
「世界で最も厳しい」どころか、国際的な標準にすら達していません。
審査の過程も問題です。電力会社が出した内容の妥当性を判断する際、厳正にチェックしていないことが判明しているほか、川内原発1号機では、運転開始から30年で行う高経年化(老朽化)対策を規制委が認可したものの、耐震評価が終わっていない機器もありました。
火山対策でも、巨大噴火の兆候があれば燃料を運び出すとする九電の方針を規制委は了承しましたが、運び出し先や運転停止基準など決めないままです。
原発を動かせば増え続ける使用済み核燃料など「核のゴミ」の問題も見通しがまったく立っていません。山積する問題を置き去りにしたままです。
民意ははっきりしています。8月の1号機の再稼働後の各種世論調査でも、再稼働「反対」が半数を超え、「賛成」を大きく上回っています。12日には鹿児島市内で、再稼働を許さないと1800人の集会とデモがあったばかりです。
根拠のない「最も厳しい水準」などとする安全神話をテコに、民意を無視して再稼働を進めるのは民主政治と相いれません。安倍政権の責任は重大です。
(「原発」取材班)
蒸気発生器の耐震性に疑問・・東京大学名誉教授(金属材料学)井野博満さんの話
川内原発2号機は、九州電力が2009年に蒸気発生器3基すべてを、14年度をめどに取り換えるとしていながら、いまだに取り換えられていません。九電は、東京電力福島第1原発事故で運転が4年以上停止していたことを理由にしているようですが、おかしい。
川内1号機では、過去に同型の蒸気発生器で損傷が相次いだことを受けて腐食に耐える性能を向上させたものに交換しています。原発が止まっていても腐食はします。むしろ余計に進むかもしれません。
さらに蒸気発生器は、熱の伝わりを良くするために薄く作る必要があり、もともと耐震性はギリギリの設計となります。さらに腐食が加われば、大きな地震動に襲われた場合、限界を超えてしまう可能性が相当にあります。
蒸気発生器を取り換えないまま運転することは、危険です。
(「しんぶん赤旗」2015年10月16日より転載)