福島第1原発事故による放射能汚染の影響で、岩手県の一部地域では今もキノコや山菜類などの出荷制限がされています。シイタケの生産地である一関市では今春、一部のシイタケ農家がようやく出荷を再開できるようになりました。
シイタケ生産が盛んな同市大東町で大規模な生産設備を持つ菊池俊秋さん(56)は、「今はまだ採算が取れていません。取れるまであと3年はかかる」と話します。
東日本震災では原木が倒れる被害を受けたものの、直後の春の収穫は例年にない豊作でした。大きな地震の揺れが刺激になったのか、大きさもあって高値が付いたといいます。この時はまだ原発事故の影響を受けるとは思ってもいませんでした。
菊池さんは、地元で利益と雇用を生み出すことを考え、シイタケの先進的な栽培方法を5年間学び、約3千万円を借りて設備を整えて2008年に生産を始めました。
栽培を始めてから大規模生産の確立に向けて順調に収穫を増やし、地元の産業を学ぶ大学生を受け入れる準備もしていた矢先に原発事故が起きました。
放射能に汚染され
放射能に汚染され使えなくなった菊池さんの原木は5万2500本。敷地の除染で出た土砂は2200トン。これらは、処分方法が決まらないままシートで覆われ、敷地に保管されています。
除染を終えて、出荷制限も解除された現在、約3万本の原木を新たに購入し栽培を再開。シイタケが出荷まで実った状態の原木は1万本です。以前の30%程度の規模です。地元産の原木は今も使用を自粛していて、県北部や、秋田県などから取り寄せているため、費用負担が倍になりました。
岩手県農民運の交渉で、一関市の農家は県内でいち早く東電の賠償を実現させましたが、生産再開後に増大した費用負担の賠償交渉はこれからです。
菊池さんは、「費用をどうやって回収するかも課題ですが、借金もあり、とにかく今あるものを活用して前に進むしかない」と再びの生産拡大に取り組んでいます。
本格的な生産再開に向けては、生産組合も課題を抱えています。
一関地方森林組合の低温貯蔵庫には、原木や土砂と同様に、放射能汚染で処分できない約24トンのシイタケが置かれ、出荷に向けた選別、保管の妨げになっています。
信頼回復に努める
それでも、組合では出荷するシイタケを、一般食品に含まれる放射性物質の国の基準値(1キログラム当たり100ベクレル)の半分、50ベクレル未満と厳しく設定するなど、信頼回復に努めています。
小山隆人専務は「放射線量の高い木を伐採して10〜20年後の再生を待つことも検討しています。とにかく、山の機能や資源を次世代に残すことが大切だと思っています」と話しました。
(佐藤幸治)
(おわり)
(「しんぶん赤旗」2015年9月16日より転載)