二人の中学1年生が殺害された大阪府寝屋川市の事件報道で、容疑者の除染作業員が、南相馬市の作業員宿舎で暮らしていた時期があるという事実を知りました。
南相馬には、全国各地から労働者が集まっています。毎日1万人規模の作業員が働き、小高区の避難指示解除に向けて、さらに1万人ほど増員されるのではないかと言われています。南相馬の現在の人口は、6万3千人余です。約4人に一人が作業員という町の様子を想像してみてください。時間帯によっては、住民と作業員が入り乱れてスーパーのレジに並んでいます。レジ打ちが遅いと店員に罵声を浴びせる作業員や、駐車場でけんかをしている作業員に遭遇することもあります。
そもそも、除染作業は、ヘルメットとマスクで顔を隠した男性たちを家の敷地に招き入れなければなりません。見ず知らずの他人に家の間取りや家族構成をのぞき見られる、という防犯上のリスクを伴うのです。
2014年の1月から11月末に検挙された除染作業員は延べ197人で、前年同期比で63人も増加しています。復興の手助けをしたい、と志を持っている作業員も大勢いる一方で、暴力団員や犯罪者も紛れ込んでいるというのも事実なのです。復興のためには除染作業が不可欠なので、作業員全体に対する差別や偏見が高まるような事態になっては困るわけですが・・。
テレビで寝屋川のニュースを見ていた高校1年生の息子が「あの容疑者と、どこかの店内で擦れ違っていたかもしれないね」とつぶやきました。
南相馬に路線バスはありません。保護者が車で送り迎えしている生徒以外はみな自転車通学です。高校の部活か終わるのは6時半、街灯のない真っ暗な通学路も少なくありません。日中は人通りがある道も、日が落ちると人通りが途絶えます。
容疑者は、2002年にも男子中高生ら7人を車に連れ込んで手錠をかけるなどして、監禁・強制わいせつ・強盗・傷害などの罪に問われ、懲侵12年の刑に服しています。容疑者は車から少年たちに道を尋ね、首に刃物を当てて車の中に引きずり込んだと報じられています。
刃物やスタンガンを使われたら、大声で叫ぶことも、防犯ブザーを鳴らすことも、走って逃げることもできません。
沿岸部の集落は津波で跡形も無いし、原発避難者の空き家も点在しています。
この地で暮らす者が、ここは安全だと言い募り、目の前にある危険を見ようとしなければ、危険はわたしたちの目を盗んではびこっていきます。
わたしたち大人には、原発事故が招き寄せたあらゆる危険を一つの視界におさめて、子どもたちに危険を回避する道筋を示す責任があるのです。
危険は白日のもとにさらさなければなりません。
(ゆう・みり 作家 写真も筆者)(月1回掲載)
(「しんぶん赤旗」2015年9月9日より転載)