九州電力が週明けにも川内(せんだい)原発の再稼働に踏み切ろうとしているなか、日本共産党の笠井亮議員は8月7日の衆院予算委員会で質問し、住民の安全確保も避難体制もない実態を示して、「再稼働は断念すべきだ」と迫りました。
笠井氏は、マスコミ各社のどの世論調査でも原発再稼働に「反対」が6割前後で過半数を占め、地元・鹿児島でも「反対」が昨年より増えて約6割にのぼっていることを指摘。周辺住民の多くが再稼働に不安を抱え、住民説明会の開催を求めているにもかかわらず、九電は応じていないことを、「説明会をやっても納得が得られない。説明不能だからだ」と批判しました。
宮沢洋一経産相は「どういう形で住民の理解を得るかは個々の事業者にまかせている」などと無責任に答弁。安倍晋三首相は「原子力規制委員会により新規制基準に適合することが確認された」と再稼働を正当化し、国民世論や住民の不安に真正面から背く姿勢をみせました。
笠井氏は「およそ民主政治とは相いれない姿勢だ」と厳しく批判。川内原発周辺(160キロ圏)には39もの火山があり、火山学の専門家も「数十年先に起こる事象を正しく予測することは不可能」(藤井敏嗣・気象庁火山噴火予知連絡会会長)と九電の主張を批判しているとして、「火山学者の知見にも耳を傾けないのか」とただしました。
首相は「川内原発の運用期間中は(破局的噴火の)可能性は十分小さいとの報告を(原子力規制委員会から)受けている」と繰り返すだけ。笠井氏が、高齢者や身体障害者など自力での避難が困難な要援護者の避難計画づくりができない点をただしても、首相は「今までの経験を生かしながら、住民の避難、安全を確保していきたい」と開き直りました。
笠井氏は、福島原発事故の反省もなく、「『安全神話』の復活は許されない」と批判。「原発再稼働を断念し、『原発ゼロ』の政治決断を下すべきだ」と迫りました。
論戦ハイライト 川内再稼働は無謀・・笠井氏質問で浮き彫り
7日の衆院予算委員会で質問に立った日本共産党の笠井亮議員。来週早々にも再稼働が強行されようとしている九州電力川内(せんだい)原発をめぐり、住民や専門家の意見に耳を傾けない政府の姿勢をただしました。昨年末のくも膜下出血からの公務復帰後、初の質問です。
笠井氏がまず取り上げたのは、反対が半数を超える国民と地元鹿児島県の世論です。
反対世論
首相 「新規制基準に適合しなければ再稼働しない」
笠井 「国民、納得してない」
笠井 最近のどの世論調査でも反対は6割前後を占める。毎週金曜日の「官邸前行動」ではこの3年4カ月、158回も「再稼働やめよ」の声があがっている。この国民世論をどう受け止めるのか。
安倍晋三首相 東日本大震災に伴う(原発の)過酷事故を経験して原発再稼働に大きな不安を持っている。だからこそ、新規制基準に適合したものでなければ、再稼働しないという方針をすすめている。
笠井氏は「首相はそういう説明を何度も繰り返してきたが、それに納得していないのが国民だ。世論調査がはっきり示している」と断言しました。
住民説明
笠井 「住民の不安に応え説明会開催を」
政府 終始事業者任せの姿勢
川内原発の地元、鹿児島県でも地元紙・南日本新聞の調査で再稼働反対が昨年より増えて約6割、女性は7割にのぼることを示し、政府の姿勢を批判しました。
多くの住民が不安を抱えるなか、国と九電は公開の住民説明会を一度も開いていません。
九州の地方議会は九電に対し公開の場での住民説明会の開催を求める決議や陳情を相次いで採択しています。
笠井 決議・陳情を受け取りながら、住民説明会に応じようとしない九電の対応をよしとするのか。
宮沢洋一経産相 どういうかたちで説明するかは個々の事業者に任せている。
事業者に丸投げし、政府は知らないとの態度に笠井氏は「県民・国民の不安・疑問にきちんとこたえるべきだ。公開説明会と(九電が実施しているという一人ひとりと顔を突き合わせた説明)の両方をやればいいのではないか」と迫りました。
笠井氏はさらに、熊本県の水俣市議会が、川内原発の拙速な再稼働に反対し住民の安全・安心最優先を求める意見書を国に出していることを示し、首相に迫りました。
笠井 「一たび原発の事故が起これば、全てが水俣病の惨禍以上の状態になってしまいます」。こういう不安を持っている住民への公開説明会をやらないのは説明をしても納得が得られない、説明不能だからではないか。
首相 川内原発は規制委員会の新規制基準に適合することが確認された。法令上の手続きを進めてもらいたい。
説明会の開催には背を向け、再稼働に向け粛々と事を進める政府の国民不在の姿勢が改めて明らかになりました。
火山対策
首相 「監視実施し安全性確保」
笠井 学会の批判を紹介「耳を傾けないのか」
笠井氏は、川内原発をめぐって火山噴火への対応が再三問題視されてきたことをあげ、同原発から160キロ圏内に爆発的噴火を最近繰り返している桜島や口永良部島(くちのえらぶじま)など39もの火山が含まれていることをパネルで示して追及しました。(地図)
笠井 原子力規制委員会は川内原発の運用期間に破局的噴火の可能性は「十分小さい」というが、「予知できる」とはいえない。これで再稼働など、政府の責任を持った対応といえるか。
首相 念には念を入れて火山活動のモニタリング(監視)を実施する。科学的・技術的に厳格な審査を行っており、安全性が確保されている。
笠井氏は、九電が鹿児島県議会で「破局的噴火の兆候が数十年前にわかる」と発言したのに対し、火山学会からは「モニタリングによって把握された異常から、数十年先の事象を正しく予測することは不可能」(藤井敏嗣東大名誉教授)「九電の主張は荒唐無稽(こうとうむけい)であり、学問への冒とくと感じる」(小山真人静岡大教授)などの厳しい指摘があがっていることを紹介。「安全性」を強弁した首相に対し、「憲法学者だけでなく火山学者の知見にも耳を傾けず、九電の主張をうのみにする。これほどの『安全神話』はない」と批判しました。
避難体制
担当相 「実効的に整備」
笠井 「始まってさえいないではないか」
さらに笠井氏は、住民が一番不安視しているのが避難計画だとして、原発から30キロ圏内の医療機関や要援護者などの避難計画の整備状況をただしました。
望月義夫原子力防災担当相は、リストから避難先を選定する「調整システム」の整備をあげ、「実効的に避難できる体制を整えている」と強調。一方、「どれくらいの人がどの方向に行くかは、その時になってみないと変わってくる」などと述べました。
笠井氏は、鹿児島県保険医協会が今年実施したアンケートでは、30キロ圏の医療・介護施設のうち、要援護者の避難計画を「作成済み」なのはわずか6施設、未作成が60施設、「自治体等からの説明なし」との回答も57施設におよぶ実態を突きつけました。
笠井 こういう実態を知っているか。
首相 (避難計画を)継続的に改善・充実を図っていく。
実態について一切ふれない首相に対し、笠井氏は「(整備は)終わりどころか始まってもいない」と批判。猛暑の今夏も原発なしで電力が足り、電力9社が経常黒字になっていることをあげ、「このまま再稼働など国民を危険にさらすだけだ。こんな無責任はない。避難計画もできないのに原発を動かしてはダメだ」と述べ、再稼働中止と原発ゼロへの決断を求めました。
(「しんぶん赤旗」2015年8月8日より転載)