原子力規制委員会は7月15日、四国電力伊方(いかた)原発3号機(愛媛県伊方町)について、再稼働の前提となる新規制基準に「適合」したとする審査書を決定し、四国電力に許可を出しました。九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県)、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)に続いて3件目。地元の「伊方原発をとめる会」は「審査に合格しても、安全とは言えない」と、決定に対し異議申し立てを行う考えを示すなど抗議の声を上げています。
規制委は5月に審査書案を取りまとめ、一般から30日間、意見募集。地震の想定が甘く「審査をやり直すべきだ」など約3500件が寄せられました。しかし、審査書は語句の修正以外、大きな変更はありませんでした。
佐田岬半島に位置する伊方原発は、事故が起きれば半島の西の住民が孤立する恐れが指摘されています。しかし、規制委の決定は、住民の避難計画を審査の対象にしておらず、住民の生命、健康を守る上で欠陥があります。
また、敷地北側に東西に走る日本有数の活断層群「中央構造線断層帯」が位置し、同原発で考慮すべき地震の揺れ(基準地震動)の想定に対し、専門家から「明らかに過小評価」と声が上がっています。
今後、詳しい設計を記した工事計画などの審査がされ、運転前には使用前検査が必要です。
伊方再稼働ありえない・・「とめる会」が愛媛県庁で会見
原子力規制委員会が、伊方原発3号機(愛媛県伊方町)は新規制基準に「適合」とする審査書を決定したことを受け、伊方原発をとめる会の和田宰事務局次長ら共同代表6人は7月15日、愛媛県庁(松山市)で記者会見しました。「新規制基準への適合性審査への『合格』は、『重大事故が起きない』ことを保証したものではなく、安全とは言えない」との見解を表明しました。
和田事務局次長は、「5月20日に、事実上の『合格』を示す審査書案を規制委員会が了承したとき、われわれは撤回を求めたが、規制委員会は受け止めなかった。新規制基準は、住民の避難計画を自治体に丸投げし、炉心溶融などのシビアアクシデント(重大事故)も避けられないものとしている」と述べ、「『合格』はありえない」と批判しました。
その上で、今回の決定に対し、行政不服審査法にもとづき「異議申し立て」を行うことを明らかにしました。
解説・・避難計画の実効性に疑問
原子力規制委員会が、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について新規制基準に「適合」したとの審査書を決定しました。
地元住民から、避難計画の実効性を疑問視する声が聞かれます。
細長い佐田岬半島の付け根に近い伊方原発。避難計画が必要な半径30キロ圏内には7市町が入り、対象住民は約12万人です。とくに問題なのは、原発の西側に住む約5000人の避難です。
事故で放射性物質が漏れた場合、陸路では原発のすぐ近くを通るしかないため、避難計画では半島の先端近くにある港から船で対岸の大分県などに避難することになっています。しかし、津波や悪天候の場合はそれも不可能となります。
また、原発近くの地質構造は日本有数の地すべり地帯で、避難だけでなく、敷地内の緊急時対応に影響する恐れもあります。
伊方原発は日本で唯一閉鎖海域に面した原発です。ひとたび汚染水が流出する事故が起きれば、瀬戸内海に深刻な汚染を引き起こすことが懸念されています。また、敷地が狭いため、福島原発事故のような汚染水の発生があった場合、タンクなどの施設を造る場所が足りなくなると指摘されています。
さらに、1988年には伊方原発の近くに米軍のヘリが墜落する事故が起きています。規制委は、落下確率が判定基準以下であるとして航空機落下については、設計上考慮する必要はないとしていますが、疑問です。
規制委設置法で、その任務に、国民の生命、健康を守ることを掲げている規制委。しかし、住民の安全にとって肝心な避難計画を何も審査することなく、住民の不安を無視していいのか。安倍政権が、規制委の決定を「尊重して」などと再稼働を進めることは許されません。
(「原発」取材班)
(「しんぶん赤旗」2015年7月26日より転載)