「3・11」から2年たった2013年3月11日、822人のいわき市民(うち、18歳未満の子ども148人)が国と東京電力に損害賠償を求めて福島地裁いわき支部に提訴しました。国の責任を明確にさせ、五つの政策課題(別項)の実現を目的にした、いわき市民訴訟の原告団長で原発問題住民運動全国連絡センター筆頭代表委員の伊東達也さんに現状について聞きました。
(菅野 尚夫)
「とうとう起きてしまった」。伊東さんが東京電力福島第1原発事故の発生時に実感した思いでした。繰り返し東京電力と「地震・津波対策に万全を尽くせと交渉してきただけに「無念でならない」と怒りが込み上げました。
04年4月以来、「福島原発はチリ津波級の津波に襲われれば、原子炉内の崩壊熱を除去するための機械冷却系が機能せず、最悪の状態が発生するので、抜本的な対策をとるべきだ」と東電と国に求め続けていました。伊東さんは「今回の事故は、聞く耳を持たず放置したために起きた人災です」と断言します。
東電の福島第1、第2原発が立地する双葉郡(広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村)を管轄とする福島地裁いわき支部には、これらの町村から、過酷な避難生活を強いられている避難者40人(その後586人に)が、東京電力を被告として、早期完全損害賠償をもとめた避難者訴訟(早川篤雄団長)が12年12月3日に提起されていました。
「この訴訟と市民訴訟は『一体の訴訟』です。相互に連携してたたかっています」と伊東さんはいいます。
継続的被害・・
いわき市民訴訟には、子どもを持つ父母が多数加わっています。事故の収束には程遠い福島第1原発近くの低線量汚染地域で日常生活を余儀なくされていることへの国と東電の責任と、継続的被害を認めさせるための訴訟と位置づけます。
いわき市の子どもたちは、多かれ少なかれ外遊びを制限され、山の幸や海の幸を享受することもできなくなっています。「特にこうした子どもたちに対して、きちんとした補償と援助策を講ずるのが、私たちおとなの務めではないか」と、伊東さんたちは考えています。
5月21日、裁判官の異動で新しい裁判官に交代。伊東さんが更新弁論に立ちました。
「最初に陳述した母親は、子どもを出産したのが2011年3月13日。翌14日、余震で原発の爆発情報もないまま、赤ちゃんを抱えて病院の裏山に避難。『生まれたばかりの赤ちゃんを被ばくさせたのではないかと後悔している』と訴えました。こうした一人一人の心からの訴えをくみ取ってほしい」と裁判官に迫りました。
現在、原告数は、第3次提訴までで1574人。事故当時18歳未満の子どもが265人、妊婦だった人11人となりました。
伊東さんは強調します。「この訴訟で原告団が求めてやまないのは、金銭賠償を超えて、五つの政策の確立とその実施にある」といいます。
これまで11回の口頭弁論が行われ、被害の立証の準備に入っています。原告にアンケートを取り、被害・損害論を構築します。東電は「(年間被ばく量)20ミリ以下は喫煙や肥満よりもリスクは小さいから問題ない」と乱暴な主張をしています。
数人の専門家の証人尋問も予定しています。
「負けられない」
安倍内閣は暴走を始めています。「『原発なくせ!』と本格的な激突になります」と伊東さんは見ています。
このたたかいで「原発のある県も、ない県も草の根で全国から原発ゼロの運動をさらに前進させる。そのなかで被災した私たち福島県の裁判所の判断は大きな力となります。負けられません」と、新たな決意を固める伊東さん。「原因論の立証でいわき支部がどう判断するのかは他の訴訟をも左右します。正念場です」と話します。
国は、原発の再稼働を次々とすすめようとしています。「大闘争にするチャンスです。国民は怒る。山のような運動で倍返しです。4年間で原発についての認識は大きく変わっています。勝利の展望が見える4年でした」と伊東さん。
いわき市民訴訟の統一スローガンは、「あやまれ、つぐなえ、なくせ原発・放射能汚染」「子どもたちが安心して生活できる福島に」です。
伊東さんはいいます。「全国民と全ての福島原発事故被害者とともに、広範ないわき市民をはじめオール福島で連帯し、この訴訟の目的実現をめざし全力を尽くしてたたかう決意です」
五つの政策課題
①全ての被害者、とりわけ子どもたちについてはより強く、生涯にわたってその健康を維持するために適切な施策を確立し、実施すること。
②将来万一疾病に罹患(りかん)した場合、とりわけ子どもたちについては長期にわたる生涯安心して治療に専念できるための公的支援策を確立すること。
③いわき市をはじめ福島全県下の各地域で「3・11」以前の状態に復元する取り組みを強力に推進すること。
④福島第1回発事故の完全収束と福島第2原発の完全廃炉を実現すること。
⑤放射能汚染についての基本的知識について、学校教育はじめ社会的普及をはかり、福島原発公害被害者に対する偏見にもとづくいわれなき社会的差別を克服すること。
(「しんぶん赤旗」2015年6月28日より転載)