安倍晋三政権のエネルギー政策の具体像が出そろいつつあります。
新増設への布石
経済産業省審議会で6月1日に了承された長期エネルギー需給見通し案は、原発再稼働に向け国が前面に立つと明記するとともに、2030年の原発の電源比率を20〜22%とし、東京電力福島第1原発事故後初めて数値目標に踏み込みました。政府は同案を7月1日まで意見公募にかけ、正式決定する構えです。
安倍首相は公式には、現時点で原発の新増設やリプレース(建て替え)は想定していないといいます。
既存の原発を運転期間40年間で順次廃炉にした場合、30年には原発比率は約15%になります。老朽化した原発の運転延長や、新増設・リプレースがなければ20〜22%にはなりません。
当面は再稼働に全力を挙げるとして、需給見通し案で高い原発比率を掲げておけば、2年後のエネルギー基本計画見直しで新増設を明記することができる・・。需給見通し案からは、安倍政権の原発復活のシナリオが透けて見えてきます。
一方、再生可能エネルギーは極めて低い導人量に抑えようとしています。
福島事故後、再エネ普及のために始まった固定価格買い取り制度によって、太陽光の認定容量は1月時点で7160万キロワットに達しています(稼働していないものを含む容量)。風力も既設分に環境影響評価中を加えると約800万キロワットになります。
ところが、需給見通し案の30年の太陽光の設備容量は6400万キロワット(電源比率7%)、風力は1000万キロワット(同1・7%)にすぎません。太陽光は現時点の認定容量すら下回る抑制目標です。
経産省は今月、固定価格買い取り制度の見直しに着手しました。太陽光の買い取りに上限を設けることや、電力会社との売電契約を参入条件とすることが検討されます。電力会社が再エネ事業者を選別する仕組みになれば、再エネ普及の障害になります。
増える石炭発電
需給見通し案はまた、二酸化炭素を大量に排出する石炭火力発電の30年の電源比率を、液化天然ガス(LNG)火力発電に次ぐ26%としました。こうした国の石炭重視が呼び水となり、現在、原発約20基分という空前の石炭発電の建設ラッシュが起きています。
安倍政権の石炭発電重視は、日本の低い温室効果ガス削減目標が国際交渉でも通用するという甘い見通しが前提になっています。年末にパリで開かれる国際交渉で、欧州迎合などと同等の削減目標が求められれば、石炭発電は日本にとって巨大な負の遺産になります。これから建設する石炭発電が想定通り稼働する保証はありません。
再エネの普及が進む欧州では、原発や火力発電が再エネとの価格競争に敗れ不採算化する事態が起きています。原発と石炭発電に固執し、再エネを抑制する安倍政権のエネルギー政策は、企業の投資もミスリードしています。
ポイント
①経産省審議会は30年の原発比率を20〜22%とする電源構成案を了承
②再エネは抑制目標。普及のための固定価格買い取り制度も改悪の恐れ
③国の姿勢を背景に地球温暖化対策に逆行する石炭発電の建設ラッシュ
(「しんぶん赤旗」2015年6月27日より転載)