元中央大学教授(核燃料化学)・舘野淳さん・・技術を結集する姿勢ない
日本大学准教授(放射線防護学)・野口邦和さん・・汚染水 安易な考えが問題
東京電力・福島第1原発事故の発生から3年・・。地下水が高濃度の放射能で汚染され、海洋への流出も続き、タンクからの汚染水漏れも頻発しています。その一方、政府や電力会社は原発再稼働への動きを強めています。原発の危険性について長年警鐘を鳴らし続けてきた舘野淳・元中央大学教授(核燃料化学)と野口邦和・日本大学准教授(放射線防護学)が、現状と課題について話し合いました。
現在の状況を、どうみますか。
野口 いまだに事故現場は危機的な状態です。原子炉容器底部の温度はかなり冷えてきましたが、建屋内にはセシウムなど放射性物質が散在し、事故直後より格段に減っているとはいえ、建屋からの放出も続いています。作業員は、緊急時の被ばく上限値(100ミリシーベルト)で働いています。とくに喫緊の課題は汚染水問題ですね。
館野 原子炉冷却のために水を循環させるシステムに地下水が流入して、毎日400トンの汚染水が増加する状況がずっと続いています。処理した水をタンクにためていますが、大仕掛けなので、作業ミスや配管の損傷などで汚染水が流れ出している・・。
野口 汚染水から放射性物質や塩分を除去するというのは相当大変な作業ですね。しかも、62種類の放射性物質を除去する装置「アルプス」は試運転状態でほとんど動いていません。単純なミスで止まることが多い。おそらく現場では経験のない労働者が対応していて、教育・訓練ができていないこともあるのでしょう。
館野 アルプスが動いても、放射性のトリチウム(3重水素)は除去できないですね。
野口 はい。東京電力は、溶接していないタンクに汚染水をためていました。パッキンの耐用年数は5年ですから、何十年も保管するつもりはなかったのでしょう。いずれトリチウムを希釈して海に放流しようと考えていたのでしょうが、とうてい地元は認めないと思いますよ。数年で海に捨てられるという安易な考えに、いちばんの問題があります。
館野 最悪の事態を考えない東電の姿勢がつまずきの元でした。
野口 タンクからの汚染水漏れでは、誤信号に慣れてしまったからか、警報が鳴っても現場も見ずに大丈夫だと判断しています。
館野 現場で、士気の低下があるのでは?
野口 相当、疲弊しているようです。本来であれば考えられないミスも増えています。
事故収束に向けて何が必要ですか。
野口 汚染水問題は①汚染水を増やす地下水の流入をどう止めるか②現にある汚染水をどう安全に管理するか・・の二つが大事です。
①は難しい。凍土遮水壁(地中に凍結管を埋め込んで土と地下水を凍らせることで地下水の流入量を遮断する計画)や雨がしみこまないよう地上をアスファルトなどで覆う案など、いくつかアイデアが出ています。
館野 土木の専門家によると、凍土工法はトンネルを掘るようなときにするんだと。今回の汚染水対策のように長期間、凍らすことができるのか。パイプが詰まって、最初からやり直しということも起こりうるのでは?
野口 いくつかある案の一つですが、技術的な検討を進めていくしかありませんね。
館野 技術を結集して収束に当たらねばなりません。しかし“国の力を傾ける”くらいの姿勢で、専門家を集めて当たっているかっこうがみえてきません。
野口 そうですね。
②は本来、難しくないはずですが、東電が手抜きをしている。事故当事者としての責任感のなさの表れです。汚染水は着実に増えていきます。今となっては、当面は適切な場所に保管して、将来的には固化処理を進める方法もあります。
館野 コンクリートで固めるんですね。汚染水問題では、東電を監督するべき原子力規制委員会の責任も大きい。ところが規制委は、事故収束よりも再稼働に向けた審査に熱中しています。
野口 危機的な状態を脱していないのに、再稼働なんてとんでもないと思いますよ。
館野 再稼働にむけて、世界最高レベルの基準で審査するのだと言っているようです。しかし、今ある原発の何が問題なのか、欠陥を提示して国民の判断を仰ぐプロセスが抜けています。
最大の問題は、炉心損傷などのシビアアクシデント(SA=過酷事故)が起こることです。今の原発は「絶対安全だ」と導入され、国民はだまされたわけです。今度はSA対策を取れば再稼働できると言っていますが、その対策は第2次世界大戦で日本の軍部が叫んだ“本土決戦”のようなもの。国民に大丈夫だと押し付けるとは、けしからん話です。
(つづく)