安倍晋三政権が月内の閣議決定を目指しているエネルギー基本計画案は、原発について発電単価が低く安定的な電源を意味する「ベースロード電源」と位置づけました。温暖化対策や日本経済のためにも原発が必要だといいます。原発の真の姿とはかけ離れています。(佐久間亮)
ポイント
・増え続ける事故費用
・甘すぎる稼働見通し
・実態踏まえ検証必要
原発が安いという根拠になっているのが政府のコスト等検証委員会が2011年12月にまとめた報告書です。報告書は原発の発電費用を1キロワット時あたり8・9円と試算。最も安いエネルギーになっています。(表)
コスト等検証委の委員を務めた立命館大学の大島堅一教授は、報告書の数字を使うのは二重に間違っていると語ります。
一つは、政府自身が12年に発電費用を試算しなおし9・0円としたのに、8・9円という古い数字を使っていることです。「あまりにも怠慢」(大島教授)です。
もう一つは、東京電力福島第1原発事故の被害の広がりを反映していないことです。
原発の発電費用8・9円は、福島原発事故の損害費用を5・8兆円と仮定したときの数字にすぎません。
大島教授は、損害費用は現時点ですでに約13兆円になっていると指摘します。また、原子力規制委員会の新規制基準に対応するための、追加の安全対策費用も約1・2兆円に上っています。
発電費用は原発にかかるコストを発電量で割って計算します。8・9円は、原発50基が40年間、稼働率70%で発電することが前提です。今年1月には福島第1原発5、6号機が廃炉になり、他の原発も再稼働の見通しはありません。
計算式の分子(発電費用)がふくれ上がり、分母(発電量)は大幅に縮小する・・。大島教授は、原発の発電費用はすでに12円を超えているとし、今後も事故費用の増加で上がり続けるとみます。(図)
「エネルギー基本計画をつくる前に実態を踏まえて検証し直すべきだ。間違った情報をもとに政策決定するのは問題だ」(大島教授)
ポイント
・出力調整ができない
・欧米では「古い発想」
・昨年(2013年)9月全原発停止
原発はいったん動きだすと昼夜問わず一定規模の電力を発電し続けます。原発を推進する人たちは、これを原発の安定性だといいます。
しかし、原発の発電量が一定しているのは、構造上、需要に応じて発電量を調節することができないからです。そのため、夜間には、余剰電力で調整池に水をくみ上げ、昼間に放出する揚水発電に使われてきました。
原発はまた、燃料費が安い半面、建設や維持管理に巨額の費用がかかります。稼働率を上げないと発電コストが高くなってしまうので、経営面からも24時間フル稼働が求められます。原発は安定的なのではなく、柔軟性がないのです。
環境NGO(非政府組織)の気候ネットワークは「欧米では、柔軟性のない原発と石炭をベースロード電源に位置づける古い発想を脱し」ていると、安倍政権の基本計画案を批判しています。
原発は、福島原発事故以前も人間の不正や自然災害によってたびたび停止してきました。原発が安定したエネルギーと言えないことは、福島原発事故後に計画停電が発生し、昨年9月以降再びすべての原発が停止していることからも明らかです。(つづく)
(連載は6回の予定)
(しんぶん赤旗2014年3月13日付けより転載)